状態異常の紹介

同じ質問をNPCに何回もされた。


「なぜ他のキャラクターを酷い病気にするの?」


うん、その質問はなんだか気持ちが悪いので二度としないでね。でも、このケースブックは楽しい、かつ教育的なテキストだし、説明しようかな。


「状態異常」は国も医者も「治しやすい」、と考えている病気のことなんだ。毒、眠り、麻痺、石化…。後から治せる訳だし、バトル中に、一時的に相手を病気にするのは合理的だと言える。だからと言って、花に水をやっているリスギに向かって、「おい、毒にしてやるぜ!」なんて言っていい訳じゃないよ。武器で攻撃する時のように、慎重にね!


最近は、相手を「状態異常」にする事はほとんどないけど、子供の頃、巨大なドラゴンと戦っている時に使ったかな。


昔、父親のゲラキッツと一緒にキングトッポッキっていうお金持ちのドラゴンの城を奪った事がある。たまたま彼がいなくて簡単にお城に入れたんだ。そして、私はこの城のお姫様になろうとしていた。私は、とてもわくわくしていたんだ。別にお金が欲しかった訳じゃない。お姫様になって、ウニになったばかりのリスギ達とただただ泳ぎたかったんだ。


ウサギとリスみたいなリスギは、ついに私のような動物になってそれからわくわくしたー


「マジコロ姫!もうスピーチの準備はオーケー?」


舞台裏にいる私はウニと泳いている空想をやめて、イライラを隠せずにいるキツネ人間のお父さんの方を向いた。彼は腕を組んで、神経質そうに足でトントントン…と音を立てていた。


「リスギ達はいる?」


ゲラキッツはため息をついた。


「お姫様になったら、またリスギ達と合わせるわ。はよ、スピーチをやれや」


「やーだ」


お父さんは怒っているときの兄ちゃんみたいにこっちを睨んでいた。お兄ちゃんも怒ると目が赤く光るんだよな。


「カゲコロみたいに生意気になったな…。立派なウニペンギンにならんと、リスギ達と泳ぐ綺麗なお姫様になれへんで」


私の頭が良かったら、「スピーチしていたら、泳げないリスギ達は沈むよ!」って逃げたんだけど、9歳の私は自分勝手でバカだったし、「仕方ないか…」と思って舞台に上がることにした。


鳥みたいなマスクを付けてるマスクトリ達が歓声をあげた。リスギはいないし、ほとんど知らないキャラばかりだったけど、「お姫様がお見えになりました!」とか「治安を良くしてくれ!」とか、皆が私に向かって叫んでいた。


舞台の後ろのスツールの上に立ち、台本を見た。全部ひらがなで書いてた。


「えっとね…こんにちは!」


周りが静まり返った後、元トッポッキの奴らがこっちをじっと見ていた。ちょっと緊張していたけど、それは単に準備不足だったからだ。


「ゲラキッツのむすめのマジコロともうします。やっとこのおうこくを、へいわにできます。おそろしいドラゴンのキングトッポッキをおいだしたので、しょうりをいわい、このくにのあたらしいおひめさまになりたいです」


聴衆をちらっと見ると、部屋に大きなドラゴンが入ってきて、敵の奴らが後ずさりしている事に気づいた。そのドラゴンはこちらに向かってきていて、鼻から炎を出して、わたしを睨んでいる。


「まず、おとなむけのおのみものをー」


「何をしているんだ?!」


ドラゴンをじっと見つめた。聴衆は静まり返っていたけど、私は何でもない事のように答えた。


「今スピーチをしているんだ。終わるまで大人しく座って待っていて下さい」


城を奪った9歳の私が台本に目を戻すと、ふしゅーという炎の音が聞こえてきた。近くに飛んできた炎をちゃんと避けたけど、台本や舞台はパチパチと燃え尽きてしまいそうだ。


睨んでいるドラゴンを見上げた。これまでで最大のボスと戦うしかないかな?


「ちょっと!リスギ達に会うためには、このスピーチを終わらせないといけないんだよ!」


「ああ、だがお前たちが“ザーマラディー”の大流行の原因を俺に押し付けなかったら、俺はハニー姫の怒りを買う事も無かったし、トッポッキ城をお前達みたいなクッソ泥棒に奪われる事も無かったんだろーな!」


“ザーマラディー”?“ザーマラディー”って何?病気について話し始めたのかと思ったら、奴はまたしても炎を吹いてきた。私はまたそれを避けた。旧トッポッキの部下が悲鳴を上げて部屋から逃げ出したのを見たので、私はこのドラゴンと戦うことにした。


「あ、来たな~!マジコロ姫、今までの訓練を思い出せ!この王国と未来を救わなきゃ、お姫様にはなれへんな~!」


ゲラキッツの命令を聞いて頷き、私は訓練を思い出した。「避ければええ」とか、「弱点を見つけろ」とか…。


でも、このボスにはどんな弱点があるかな…


あ、そうだ、炎を吹いているドラゴンは水に弱いんだよ!


ふゅー!


私は地面に伏せて転がり、くちばしから水を出した。水は空中を飛んでいき、奴の鼻に当たった。「やったか!」、と思ったけど、与えたダメージの量に気付いてしまった。


2のダメージ、全然効いていない。


え?どんなレベルー


「本当に?こんなに強いの?」


また奴の炎を避けて、巨大な足に向かって駆け出した。こいつは水に強いから、くちばしから水を出す技はダメなんだ。水以外の技を使うしかない。


大きな緑の足に着いた後、何の技を使えば考え始めた。ここはまるで避難所みたいだ…。―というのも、まさかキングトッポッキが自分の足を燃やす訳ないしね。


「くそ野郎!お前がそこにいると炎を出せねー!動かないとサッカーボールみたいに蹴り飛ばすぞ!」


くっそ!キングトッポッキに蹴られたらマジでコロがってしまうよ!って言ってる場合じゃないか。どうしようかな…。ところで、奴の言う“サッカーボール”って何かにしっかりと付いているボールの事なのかな?


“サッカーさん”のボールってどんなボールなんだろうか…


深く考え込んでいると、キングトッポッキは私を振り払うように蹴りまくってきた。私は振り落とされないように、もっとしっかりと足を抱きしめた。これは正に死闘になった。


「離れろ!無邪気な害虫め、これで退治してやるわ!俺の炎を食らえ!」


え、炎で自分自身が焼かれちゃってもいいの?!炎に包まれた一撃必殺技を受けたら、絶対に気絶しちゃうよ!どうすればいい?良い案が思いつかない…。


ぴくぴく、ぴくぴく…


あれ?私のトゲがピクピクと動き出した。


私は深く考え込むと、七つのトゲが小刻みに動く癖がある。まるで「ローディング中」みたいな感じだけど、このトゲ揺らしを「かわいい~!」って言ってくれるリスギもゼロではない。


ついつい私のトゲを撫でたリスギを毒にしちゃったこともあった。今は後悔しているんだけど…


あれ、ちょっと待てよ。間違えて毒にしちゃった…ほかのキャラを毒にできるから…そうだ、分かった!


私はマントのフードを脱ぎ、右を向いて全力でー


「がああぁぁ!何をした?!」


奴の足が床に付いた瞬間、私は足から離れて舞台に戻っていった。キングトッポッキは怒った顔でこっちを見ていたけど、咳やしゃっくりをする度に、口から紫の泡が出て22のダメージを受けている。そんなに毒に弱かったなんてびっくりしたよ。ゲラキッツは振り上げた拳を強く握りしめ、ニヤニヤと笑った。そして、自分たっぷりに叫んだ。


「さあ、過去を壊して新しい未来を創造しろ!」


私はうなずき、全力で水を出し始めた。さっきは2しかダメージを与えられなかったけど、毒と合わさって100くらいダメージが出ていた。終わるまで炎を避ければ、おそらく、いや、絶対に勝てる!


お父さん!リスギ達と泳ぐ、平和な王国が目に浮かぶ!王族は永遠に!もう問題はないー


ふゅー!


ほとんど避けていたとしても、完璧っていう訳じゃない。パチパチという音が聞こえたので振り返ると、マントが燃やされていることに気付いた。


27のダメージ!


「マジコロ姫!炎を狙おうや!」


マントの炎に水を出そうとしたけど、どんなに頑張っても炎に水が当たらない。犬がしっぽを追いかけて遊んでいるみたいにくるくると回っているうちに、どんどんダメージを受けてしまった。


「何してんねん?回っててもあかんやろ!」


「だって、お父さん、できないよ!」


「ほんまにやってる?もっと頑張れば出来るようになるって!頑張れ!」


でも、その前に、今まで見た事もない大きな炎に包まれ、532もダメージを受けた。その後、意識を失って気絶した。


今は、キングトッポッキが再び自分の城を治めている。また城を乗っ取りたい訳ではないけど、もし毒や火傷を治せるアイテムがあったら、何か変わっただろうか?勝者は私?それともキングトッポッキ?引き分けかも?


どこに行けば、こういうアイテムは手に入る?

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Dr.マジコロの不思議なケースブック Madzie(マドジー) @Madzie

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