険しい道
ボクは、普通に就職して彼女とも同棲して…はたからみたら順調な人生を歩んでいると思われる。
…しかし、実際にはそれは表向きだけなのだ。
彼女の綾だって、はたからみたら幸せそうに見えるだろう。
でも、笑顔の裏には誰にも見えないフィルターがかかっているのだ。
その笑顔は、真の笑顔じゃない。
それを誰も知らない。
いや、正確には…二人だけ知っているのかもしれない。
そう…
そのことを知っているのは、たぶん…綾本人とボクだ。
はぁー…
ボクは、思わずため息をもらした。
一人の女性すらも幸せにしてあげられない不甲斐なさが心底嫌になる。
今までは、勉強もできて希望の会社にも入社できて好きな人もできて順調だったのに…。
きっとボクは、今まで平坦な道を歩いていたのだろう。
しかし今、険しい道のりになってしまったようだ。
もしもこれが登山だとすれば、履きやすい靴に履き替えて、動きやすい服装にする。
そして登山用の杖も装備したいところだ。
じゃあ、今の現実に照らし合わせてみると…
ボクがイメチェンして外見をかえる?
そして綾になにかプレゼントでもする?
…
うーん、なんか違う気がするんだよなー…。
…
しばらく考えたあと、ふと思った。
ボクだけが険しい道になったのじゃないと。
もしかしたら、綾も険しい道にさしかかっているのかもしれない。
というか…ボクが綾を険しい道へと連れ出してしまったような気がしてならない…。
綾は、今まさに誰かに手を差し伸べてもらいたいのではないだろか…?
それがボクじゃないのは、わかる。
たぶん…あのコンビニに一緒に入ってきた男性に違いない。
綾は、無意識に助けを求めている可能性が高い。
ボクが綾をどんどん険しい道へと連れ出して…その男性は、ボクたちが見えるルートの険しくない道を軽々と進んでいる…。
だからきっと綾は、あの人のあっちのルートに行きたいな…と、無意識に見てしまっているのだと。
これは自分だけが装備しても無理そうだ。
このままじゃ綾は…
綾は、別ルートのあの男性のところへ行ってしまう。
…
…
待ってくれ‼︎綾ーー‼︎
「綾ーー‼︎」
…
ガバッ
…
起き上がると、そこはいつもの真っ暗な寝室だった。
ボクは、いつのまにか眠っていたようだ。
さっきあの後、寝室に入り本を読みながら考えごとをして…そして色々考えているうちに寝ていたのだろうか?
寝ているのに…脳内でひたすら考えごとをしていたようなへんな感覚だった。
そしてびっくりして起きたのだけれど…綾と必死に呼んだのも寝言だったのだろう…。
必死に綾を呼んだのだけれど、きちんとした声にもならず口をつむんだまま、ムンごぅ…みたいなへんな声を出してそれに自分でびっくりして目を覚ましたのだ。
むくっと起きて隣の綾を確認した。
綾もいつのまにか眠りについていたようだ。
ホッ…
まだ隣には、綾がいてくれて少し安心した。
ボクの様子に気づいて綾は、
「どうしたの?」
と心配してくれた。
「あー…、ううん。大丈夫…。ちょっとトイレ行ってくるわ」
綾を起こしてしまい申し訳なかった。
ボクが布団から出ると、綾はまた眠りについた。
立ち上がると机の上に本がとじて置いてあった。
たぶん読んでいる途中に寝落ちしたに違いない。
それをみた綾がきっと机に置いてくれたようだ。
まぁ、本なんてほとんど読んでいない…。
ただ、本をひらいて綺麗に並べられた字をみながら考えごとをしていただけだ。
綾…
こんなにも近くにいるのに…とっても遠い。
心の距離が縮まらない。
むしろどんどん遠ざかるような気がしてならない。
…
トイレから戻り布団に入ると、綾はぐっすりと眠っていた。
その隣でボクは、なかなか眠りにつけることができなかった。
ようやく眠りについた頃、目覚ましがなった。
…
隣をみると、綾はすでに起きて朝ごはんの準備をしているようだ。
いつもの日常…
しかし…コンビニで見てしまった綾のあんな笑顔を思い出すと、なんだか無性に辛くなる。
…
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
綾のその言葉が
「それじゃあ、さよなら」
に感じてしまうボクは、考えすぎなのだろうか…。
続く。
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