第6話舞踏会のパートナー



「学年末の舞踏会で王太子のパートナーはヨルに決まったらしい!」

「そりゃほとんど決定じゃないか!?」

「いやまだ分からんぞ!王太子の成人までまだ時間はある」


この国では女は十八、男は十六で学院を卒業し、成人となる。

魔力の強い女の方が、成人して未成年に課されていた様々なが解除された時に起こる事故の被害が大きいため、より慎重を期されるためだ。


「アサとヨルのお二人は、もう十八で成人か」

「未成年制限を解除されたお二人の魔法はえげつないだろうなぁ」

「楽しみだなぁ」


国民たちは、王都のあちらこちらで好き勝手噂しているのであった。






そんな訳で、ヨルが暫定婚約者の座を手に入れた。

まだ正式決定ではないとはいえ、アサは切歯扼腕して悔しがった。美しい顔立ちも見えなくなるほどの憤怒である。


「ヨル、ヨル!さすがに卑怯よ!あなた、あんな子供相手に色仕掛けしたでしょう!?」

「アサ、アサ、何を言っているの?」


キョトンとした顔を作って、ヨルはふふっと笑った。


「アナタとの勝負の時に手を選んでなんていられないわ。なんでもありよ」


ウフフといやらしく笑った後で、ヨルは堪りかねたようにオホホホホと高笑いする。


「お綺麗なアサ。光り輝くアサ。そんなものだけじゃ、ヨルには勝てないわよ」

「……ヨル」


馬鹿にしたような笑い声を残して去っていくヨルを、アサは月のない夜のように真っ黒な目で見つめた。









「ねぇ王子様、お隣よろしくて?」


野外授業でヨルとアサは別班のリーダーとして行動している。今日は王太子はアサの班員だ。昼食時、他の班員から距離を取られて一人モサモサと食べている王太子に、アサは声をかけた。


「もちろんだよ、アサ」


にこにこと返答するのは、考えが浅くて可愛い十四歳だ。事実上「選ばなかった」方の女から誘われても、何も考えずに嬉しそうに頷く。男の子は、綺麗なお姉さんはみんな好きなのだ。


「では遠慮なく」

「えっ」


すとん、と腰を下ろしたのは本当に真隣。ぺったりとくっつくほどに近い距離だ。


「ア、アサ?」


ドキドキとときめいているらしい王太子に、アサはニコリと微笑みかけ、手を握った。


「ねぇ王子様、ヨルとばかりではなく、私とも距離を縮めて相互理解を深めましょ?…お嫌?」


これまでこのような直接的アプローチに出たことがないアサの行動に王太子の顔は真っ赤だ。嫌なわけはない、と首を振るだけで精一杯。


「あぁ、よかった!」


嬉しそうに言って腕に抱きつくアサ。胸もしっかり腕に押し付けている。見た目よりわりとボリューミーな膨らみが王太子の腕で潰され、王太子は我が腕をガン見していた。


「うわーやってるー」

「ヨルさんに負けそうだからって、手段選ばなすぎでは」

「アサさん、そういう手に出るんだ……」


周りが失望と軽蔑まじりきひそひそ囁く声など、勝負がかかっているので手が選んでいられないアサの耳には馬耳東風だ。ちなみに王太子はおっぱいのインパクトが強すぎて何も聞こえていない。


「ヨルさんは流し目とか、さりげないタッチとかしてたけどね」

「いやあれはヨルさんの色気があったから成立するんだろ」

「まぁ、アサさんじゃね、色気って感じじゃないし」

「明るく物理的に距離縮めるのはキャラクター的には正解では」 



など冷静で辛口な女子の批評も聞こえぬふりだ。

わざとらしく王太子の体に手や足で触れていたヨルのアプローチを真似ても、本当に偶然だと思われるだけだと判断したアサは、ぐいぐい迫ることに決めたのだ。

正々堂々戦っていては、ヨルには勝てないので。


しかし、一度決まった舞踏会のパートナー、すなわり仮婚約を覆すのは、なかなか難しい。


王太子も気が早かったと後悔した。

アサに好かれていると早合点した王太子は、真に愛する相手を選び、将来は愛し愛された結婚をしたいと夢見ている。王太子は愚かだったので、自分がアサに愛されていると思っていた。

なんなら、ヨルを愛人にしてアサを妻にするのが理想だなとか、クズいことも考えている。根がアホなのだ。魔女王の伴侶としてのみ存在が許される彼に、そんな真似が許されるわけもないのに。



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