第5話駄目な息子の育て方


二人のお役目は、十四才で魔法学院に入学して来た王太子が授業についていくための家庭教師兼ご学友だ。ついでに、事故など起こらないようにお目付け役と警備も兼ねている。いろいろ兼任だ。


そして、未来の魔女王として相応しいのはどちらか見極めるのは、なんと王太子の仕事であった。


ぶっちゃけ王太子は、こんな大それたお役目には力不足の凡夫であった。

しかし魔女王は「どっちも甲乙つけ難くて選べんないし、まぁどっちでも良いよ」と思ってるので、息子の気の合う方で良いと言う判断である。

どちらも魔女王への適正は王城の百合が保証している。だから、息子の伴侶でもある魔女王には、息子が幸せになれる方を選べば良いと思っているのだ。母の愛である。




さて。

代々似たような方針で魔女王が決められるのだが、この国に魔女王の子は基本的に一人、男児のみである。

王国最強の魔女が全力の加護を子にかけるので、一人でも大丈夫なのだ。


そして魔女王は、トラブルの元なので女児を

妊娠する前から体を整え、男児を産むように魔法で調整するのだ。

万が一女児が産まれると、魔法で調整できなかったということなので、魔女王の資格は剥奪される。

だから常に魔女王の子は男子しかおらず、王太子しかいない。


しかもたいていは、凡庸な王太子だ。


いつの時代でも、その時代にもっとも優秀なものを魔女王候補に選ぶので、下手に優秀な王太子がいると女王の治世に邪魔なのだ。

歴代の魔女王は、凡庸な王太子を作り上げるのにも割と苦労してきた。

を作成する手段として歴代の魔女王は我が子をスポイルしてきた。つまり溺愛して小さな恋人、もしくは歳の離れた愛人のように扱うのである。

魔女王本人も息子も幸せなので、誰も損をしない『ダメな息子の育て方』である。


そんな訳でたいていは、自己肯定感馬鹿高な凡人王太子が出来上がる。

どうしてもどうやってもスポイルされなかったマトモな男は、それはそれでマトモで有能な男として、女王の伴侶を務める。


今代の王太子はきちんと甘やかされてダメになった僕ちゃんだった。

アサとヨルは三歳下の僕ちゃん王太子に家庭教師として指導しつつ、学院でも先輩として教え導いた。


さて、そんなこんなで王太子、お年頃なので「オトナなお姉様ぽいヨルの方がすきだなぁ、夜のことも手取り足取り教えてくれそうだしなぁ」などと、ヨルが聞いたらおそらく朝まで笑い続けそうな珍発想に至った。


でもこれにはヨルも責任がある。

というか、ヨルが悪い。


暇さえあれば王太子に流し目を送ってウインクしていたし、頻繁に偶然を装って手を触れたり、机の下で爪先で触れたり、衝撃から守るフリをして一瞬胸を押し当てたりしていたのだから。

あらゆる免疫のない純粋培養箱庭育ちの十四歳の男の子が、綺麗な十七歳のお姉さんに堕ちるのは一瞬であった。その年頃の男の子が、下半身に訴えかける誘惑に勝てるはずがないのだ。


王太子はヨルの手練手管に陥落した。


「こら、ダメでしょう?」


などと、たまに上から目線で嗜められるのも堪らなかった。王太子は、基本嗜虐嗜好の気がある愚か者である。


「ごめんなさい、ヨル」


これまで謝罪などしたことのない王太子は、叱られて謝るという行為にちょっとした興奮を覚えていた。叱りつけるヨルの目はとろりと熱くて、その目に見られるだけでドキドキしてしまうのだ。叱られた後に


「良い子」


なんて褒められてしまうともうダメだ。


自分を対等な友人のように扱うアサがお子様に見えてしまって、今は友達以上の関係になることは考えられなかった。本来はアサの方が適切なをしているのだが、


なんやかんやで常に優秀と言われるのはヨルの方だし、ヨルを奥さんにした方が羨ましがられる気がする……なんて浅いことを考えていたりもした。


「ねぇヨル、学年度末にある感謝祭の舞踏会、僕のパートナーとして一緒に踊ってくれるかい?」

「まぁ、よろこんで!」


舞踏会で踊るのは、家族でなければ恋人同士と決まっている。ヨルは満面の笑みで頷いた。


「これで勝ったも同然ね」


と内心で呟きながら。




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