第12話
「よく頑張ったわね。平均点七十三なんてちょっと前のあんたからしたら奇跡よ?」
「唯がつきっきりで教えてくれたおかげだよ。本当にありがとう」
僕が無事に試験をパスできたのは、他でもない唯のおかげだ。
彼女が熱心に僕に勉強を教えてくれたから、僕は夏休みを楽しめる。
「気にしなくて良いわ。あたしは自分のためにしただけだから」
「それでも嬉しいことに変わりは無いよ」
僕たちはテーブルの中央に広げられたポテトをつまみながら、達成感に浸っていた。
これで僕は唯や恵麻と一緒に、海に行けるのだ。
「二人とも仲が良いねぇ~」
「え!?仲が良い!!?そんなんじゃ無いよ!!!?」
僕たちの様子を見て、恵麻がニヤニヤ笑いながら冷やかしてきた。
好きな人からそんなことを言われるのは、なんだかショックだった。
「隠さなくても良いよぉ。私も二人が仲が良くて嬉しいし」
「違うんだって恵麻!普通だよ、普通!!」
恵麻にそんな風に思われるのは、なんだかとても嫌だった。
僕は必死に恵麻の誤解を正そうとした。
「……へぇ~、普通……ねぇ……」
「唯、何でそんな目で見るの?」
恵麻に弁明する僕を、唯が冷たい目で見ている。
どうして唯がそんな目で僕を見るの?唯だって僕より恵麻の方が好きなんでしょ?
「……別に……」
「どうしたのさ?なんで怒るのさ?」
唯は急に不機嫌になり、ストローを噛みつぶしている。
なぜ彼女は、僕が自分との関係を否定したくらいで怒るのだろうか?
「別に怒ってなんか無いわよ?あんたの気持ちが良くわかっただけ」
「いや、絶対に怒ってるよ?」
唯はアイスティーを飲みながら、そっぽを向いてしまった。
僕と唯は恵麻を奪い合うライバルだろ?それがなんで怒るのさ?
「駆っちは『クソボケ』だねぇ」
「え?くそぼけ?何それ?」
恵麻はシェイクを飲みながらジト目で僕を見て、呆れている様子だった。
何で恵麻にまでそんな態度を取られなくちゃいけないの?
僕、何か間違えた?なんで二人に怒られなくちゃいけないの?
一体、どうすれば僕は良かったの?
「駆っち、ちゃんと唯っちに謝ってね?」
「え?なんで?僕、何をしたの?」
唯はあのあと、不機嫌そうに一人でさっさと帰ってしまった。
そしてファーストフード店を出たタイミングで、恵麻にそう言われてしまった。
「……仕方ないなぁ。じゃあ、ヒントをあげるね?」
「ヒント?どうして答えを教えてくれないの?」
「それじゃあ、意味が無いからだよ」
僕には恵麻も少し怒っているように見える。
彼女は僕に何かを察してほしいのだろうが、僕には思い当たる節が無かった。
「駆っちは、唯っちが自分をどう思ってるか考えたことってある?」
「どうって……幼なじみでしょ?」
僕と唯は親戚同士で、住んでいる場所も近い。
それにお母さんが唯を家に連れてきて、面倒を見ることも多かった。
「それもあるね。でも、それだけじゃ無かったらどうする?」
「いや……まあ、唯とはちょっと色々ある関係だからね……」
今の僕は唯に弱みを握られ、強制的に協力させられている状態だ。
しかし、そのことと唯が怒ることに何の関係があると言うのだろうか?
「駆っち、唯っちは昔からとっても欲張りで寂しがり屋な女の子なんだよ?」
「……それがヒント?」
恵麻が僕に与えたヒントは、ヒントとも呼べないような代物だった。
そのヒントで、何の謎が解けると言うのだろうか?
「あとは、今まで唯っちの言ってた事とかした事を良く思い出してね?」
「え!あ、ちょっと!!恵麻!!!」
そう言い残すと、恵麻も僕の脇をすり抜けて歩いて言ってしまった。
黒髪の三つ編みを揺らしながら歩く彼女の背中は、来るなと言っているようだった。
「……唯が僕をどう思ってるか?」
僕は結局、恵麻の背中が見えなくなるまで立ち尽くしたままだった。
そのあと、僕は一人でトボトボと歩いて家に帰った。
「ああ、お帰り~」
「……ただいま」
玄関扉を空けると、コロコロで家の掃除をしていたお母さんが現れた。
お母さんは僕の顔を見ると、察しの悪い僕とは違い何かに気づいたようだ。
「どうかしたの?もしかして試験、落ちたとか?」
「いや、試験には受かったよ?ただ……」
気がついた時、僕はお母さんに今日あった出来事を話していた。
恵麻は自分で考えろと言ったが、あまりにもヒントが少なすぎる。
「……って言われたんだ」
「ふぅ~~ん、唯ちゃんの気持ちか……なるほどね」
「お母さん、何か分かるの?」
お母さんは僕が話したあらましを聞いて、何かを察したらしい。
お母さんにまで分かるなんて、やっぱり僕は察しが悪いのだろうか?
「そりゃ大人だからね。色々と経験値は高いよ」
「教えてよ!どうして唯も恵麻も怒ってるの!?」
僕は玄関でお母さんに泣きついた。
一秒でも早く答えを見つけなくては、僕は大切なものを失うような気がした。
「まずは上がったら?それから手を洗ったら?」
「……うん」
僕はお母さんに言われるまま、洗面上へと向かい手洗いうがいを済ませた。
そしてお母さんが居るであろうダイニングへ入ると、お茶が出されていた。
「正直、これはお母さんも駆が悪いと思う」
「どうして?僕は何をしたの?」
三人が三人とも、僕が悪いと言っているが僕には罪の意識が無い。
僕は何が原因で唯や恵麻が怒っているのか、全く分からないからだ。
「恵麻ちゃんが怒ってるのは、駆が唯ちゃんの気持ちに気づかないから」
「……そうらしいね?でも、唯の気持ちって?」
恵麻が怒っている理由は、なんとなく察しがついている。
僕が唯を怒らせ、その原因を理解できないから怒っているのだ。
「駆?もし、これが唯ちゃんじゃなくって『最近出会った娘』だったらどうする?」
「え?最近出会った娘?」
僕にはどうしてお母さんが、そんな例え話をするのか理解できなかった。
唯じゃ無くて、他の子だったら何だと言うのだろうか?
「そう、最近出会った娘が駆を家に泊めて勉強を見る。そう考えてみたら?」
「……かなり距離感が近いよね?それって」
普通、女の子は男の子を自分の家に泊めたりなんかしない。
まして、両親が不在の時に二人っきりだなんて危険すぎる。
「そうだね?でも、どうして唯ちゃんだと普通になっちゃうの?」
「え?だって、唯は幼なじみで従妹だよ?」
僕と唯の関係性なら、二人っきりになっても普通だと思うが?
「だけど駆は高校生になった唯ちゃんを見て、どう思った?」
「え?どう思ったって……何も!?」
僕は高校の合格者発表の会場で、数年ぶりに唯と恵麻に会った。
その時、僕は唯に思わず目を奪われてしまった。
でも、従妹の唯にそんな気持ちを抱いたなんて言えるわけが無かった。
「それは嘘だね。お母さんから見ても唯ちゃんかわいくなったもん」
「確かにかわいいと思ったけど、相手は従妹の唯だよ!?」
僕は唯を見て、彼女が魅力的な女の子へと変貌したことに驚いた。
中学時代の唯は、髪を伸ばしてたがちょっと野暮ったかった。
それが高校生になった途端、僕の瞳を奪ったのだ。
「従妹だったら何なの?幼なじみだったら好きになっちゃいけないの?」
「そうじゃ無いけど……唯には好きな人が居るから……」
お母さんの言うとおり、従妹とか幼なじみとか好きになるのに本当は関係ない。
しかし、唯は恵麻が好きだと僕に打ち明けている。
「好きな人って、いつも一人だけなのかな?二人居たらおかしい?」
「おかしいでしょ!?そんなの浮気じゃ無いか!!?」
お母さんは、一体何を言っているのだろうか?
例えばお母さんがお父さん以外の人を好きだったら大事じゃ無いか!?
「唯ちゃんはその人と付き合ってるの?」
「……いや……違うけど……」
唯は僕に、恵麻との仲が進展するように手伝えと言っている。
つまり、唯と恵麻はまだ付き合っていないのだ。
「だったら問題ないじゃん?どっちかと付き合ってるわけじゃ無いんだから」
「……でも……それじゃあ……僕は……」
もし、唯が恵麻と同時に僕を好きだとしたら彼女はなぜ僕を脅迫した?
僕に恵麻とのデートを手伝えと強要するのはなぜだ?
「本当は答えなんて出てるんじゃ無いの?気づいてないだけで」
「……唯は僕と恵麻が好き?」
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