硬い煎餅と男の物語
星咲 紗和(ほしざき さわ)
本編
ある日の午後、男はふと煎餅を食べたくなった。台所の棚から取り出した煎餅は、見た目からしてかなりの硬さを誇っていた。しかし、男はそれに気づくことなく、無邪気に煎餅を口に運んだ。
一口目を噛んだ瞬間、男の前歯に激痛が走った。思わず手で口を覆い、顔をしかめる。前歯が折れてしまったのだ。煎餅は全く割れず、男の歯だけが無惨に折れてしまった。
「どうしてこんなに硬いんだ...」
そう呟きながら、男は煎餅をテーブルに置き、急いで歯医者に向かった。診察室で待っている間も、あの煎餅の硬さが頭から離れなかった。数分後、歯科医が男を呼び入れ、治療が始まった。
「前歯が折れたんですね。何か硬いものでも噛みましたか?」
歯科医の質問に、男は苦笑いしながら煎餅の話をした。歯科医も驚いた顔を見せつつ、迅速に治療を進めた。数日間、男は何度か歯医者に通い、ついに治療が完了した。
ある日、男は家に戻り、いつものようにテーブルに座った。ふと目をやると、そこにはあの日の煎餅が置かれていた。硬くて割れない煎餅。その姿はまるで男への挑戦のようだった。
「また、あの煎餅か...」
男は手に取り、軽く叩いてみた。その硬さは以前と変わらず、まるで石のようだ。しかし、男はもう一度挑戦しようとは思わなかった。前歯の痛みが蘇り、そっと煎餅をテーブルに戻した。
「煎餅を食べるのも命がけだな」
そう言って男は笑いながら、柔らかいお菓子を取り出し、穏やかな午後を過ごした。煎餅はそのままテーブルに置かれ、男の挑戦心を試し続けるように静かに存在し続けた。
### 終わり
硬い煎餅と男の物語 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
不安症な私と、九谷焼のちょっとしたお話最新/星咲 紗和(ほしざき さわ)
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 20話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます