十五夜の花火

 私、凛月りつは空を眺めて、小さくため息をついた。


 自己紹介。

 私は迷井まよい凛月。妹と姉が一人ずついる。詳しくは別シリーズの『未だ空の先』を読んでほしい——って、私は一体何を。


 今日は十五夜……というか、昨日が十五夜なのに今日が満月という意味がわからない感じなのだけど。

 残念なことに、若干雲がかかっていて上手く見えなかった。

 やはり、自分の名前に月が入っているからか親近感がある。特に去年は十五夜が九月二十九日、加えて自分の十五歳の誕生日でもあった。

「凛月、お団子つくるよ? 早くきてよ」

「姉さん、まだ月出てないよ」

 結星ゆら姉さんに急かされて、私はそう答えた。

「まだ月が出て時間が経ってないから見えないわよ。もうちょっと待ちなさい」

「そっか」

 普通に勘違いしてた——月の出の時間と。

 私は姉妹とお団子を作ろうとキッチンに向かう。見ると、小夜さよちゃんがホームベーカリーで餅米を炊いている途中だった。


凛月姉りつねえ。空を見上げて物思いに耽っているような背中はまるでかぐや姫のようだったぞ」

「髪が長いからね」

 小夜ちゃんにそう言われると、まあ、仕方ないとしか思えない……。

 小学校四年生ごろから伸ばしている髪は、座ったら地面につくほどの長さになっている。

 ……そろそろ切ろうかな。


「もったいないよー。凛月姉の髪の匂いめっちゃいいんだから……」

「そんなに思いっきり吸わないで……」

 小夜ちゃんが私の背後にまわって、すーっと深呼吸をした。


「ほら、お餅できたみたいよ? ……わぁ、ほかほかね」

 姉さんが顔を綻ばせる。とてもいい香りがする。

「三人で作ればすぐよ。さ、やりましょ」

「はぁい」

 姉さんの呼びかけに、私たち二人は答える。


「できた!」

 一気に炊いた餅米はかなりの量で、時間がかかったけれど、完成したお餅の山で私たちは声をあげた。


「結構時間かかったわね……じゃあ、外に持っていきましょ。臨場感ある」

「おー。らしいお皿……お皿なのこれ?」

 私の素朴な疑問に、博識な小夜ちゃんが答える。

「月見団子乗せるやつは、三方さんぼうって言うんだよ」

「へぇ。そーなんだ」

 そんな会話をしながら、私たち三人は揃って縁側に座る。ふと、私はつぶやいた。

「……暇になったね」

「花火でもする?」

「え、あるの!? やろうよ!」

 姉さんの予想外の答えに、小夜ちゃんのテンションが高くなった。


「おー、こういうのって二本持ちしたくなるよねぇ」

「凛月姉もったいない。一本ずつやって」

 あいも変わらず妹に諭される姉。

 ……あ。

「月だ」

 私と姉さんの声がかぶる。くすっ、と笑い合う。

「姉さんたち、花火やらないなら私が全部やっちゃうからね」

「待って待って。私紫のやつやりたい」

 意外にも姉さんが手持ち花火に飛びついている。

 対して私は——正直あまり乗り気ではなかった、というか。月をもっと眺めていたかった。


「姉さん、ほら、またかぐや姫みたいになっえる。ほら、花火花火」

 後ろから背中をチョンチョンされた。小夜ちゃんが時間経過で色の変わるものとか、ピンクだとか緑だとか、煙が少ないものだとかを沢山持っている。

「お、おう。テンション高いな」

「これ終わったら線香花火対決やるぞ。これが夏の醍醐味だ、姉さん」

 そんな時、ふと玄関のドアが開いた音がした。

「あ、きた」

「おかえりーっ」

「あ、せっかくだから、二人も線香花火やろうよ!」

「お餅たくさんあるよ」

 私たちは玄関の方向を見ずに、大声で言う。まあ、いつもあの人たちは何も言わない。無口な人たちだ……だからやらかすんだよ。

 私は重い腰を上げて、玄関に向かう。

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