第20話「自然との調和」
デジタルデトックスの旅も4日目を迎え、美月の心と体は自然のリズムに完全に同調し始めていた。この朝も、鳥のさえずりと共に目覚めた美月は、深呼吸をしながらゆっくりと起き上がった。
窓を開けると、朝霧が山々を優しく包み込んでいる光景が広がっていた。美月は、その幻想的な風景に心を奪われ、しばし立ち尽くした。霧が晴れていく様子は、まるで自分の心の中の霧が晴れていくようにも感じられた。
今日の装いは、宿で借りた麻の浴衣に、自分で持参した藍染めの帯を合わせることにした。鏡の前に立ち、帯を結ぶ所作を丁寧に行う。その動作の一つ一つが、美月にとっては瞑想のようだった。
朝食は、宿の庭に面したデッキで取ることにした。朝露に濡れた草花の香り、清らかな空気、そして目の前に広がる山々の雄大な景色。これらが美月の五感を優しく刺激する。地元の季節の野菜を使った朝粥を口に運びながら、美月は自然と一体になっているような感覚に包まれた。
食事を終えた後、美月は宿のご主人に勧められた近くの滝へ向かうことにした。山道を歩きながら、美月は自分の足音と呼吸に意識を向けた。時折聞こえる小鳥のさえずりや、風に揺れる木々の音が、美月の心を癒していく。
滝に到着すると、その圧倒的な迫力に美月は息を呑んだ。轟音と共に落ちる水しぶき、岩肌を伝う水の流れ、そして周囲に漂う清涼な空気。美月は、自然の力強さと美しさに深く感動した。
滝つぼの近くの岩に腰かけ、美月は瞑想を始めた。目を閉じ、滝の音に意識を集中する。その音は、まるで宇宙の鼓動のように美月の全身を包み込んだ。時間の感覚が失われ、美月は自然と一体化したような深い平安を感じた。
瞑想を終えた美月は、持参したスケッチブックを取り出した。滝の姿を描きながら、美月は自然の中に身を置くことの大切さを改めて実感した。線を重ねていくうちに、美月の心の中にも何かが描かれていくような感覚があった。
昼食は、美月が自ら摘んだ山菜を使った天ぷらだった。宿の料理人に教わりながら、美月は初めての山菜料理に挑戦した。山菜の香りと天ぷらの軽やかな食感が、美月の舌を楽しませる。自分で採った食材を調理し、味わう喜びに、美月は深い満足感を覚えた。
午後は、宿で開かれている織物教室に参加することにした。地元の職人から教わりながら、美月は丁寧に織り機を操作した。糸が織り上がっていく様子を見ながら、美月は人生もまた一本一本の糸が織りなす布のようなものだと感じた。
夕暮れ時、美月は宿の屋上にある星空観察スポットへ向かった。日が沈み、空が濃紺に染まっていく様子は息をのむほど美しかった。やがて星々が輝き始め、美月は広大な宇宙の一部であることを強く実感した。
夜、部屋に戻った美月は、再びノートを開いた。ペンを走らせながら、今日の体験を言葉にしていく。
「自然と向き合うことで、自分自身との対話が深まっていく。デジタルの世界から離れることで、逆に世界とのつながりを強く感じられるようになった。この感覚を、日常に戻っても忘れないでいたい」
美月は、そう書き記した。窓の外では、満天の星空が美月を見守っているようだった。
就寝前、美月は自作のハーブティーを楽しみながら、明日への期待を膨らませた。デジタルデトックスの旅も残すところあと3日。これまでの気づきを、どのように日常に活かせるか、美月は静かに考えを巡らせた。
布団に横たわり、美月は深呼吸をした。耳を澄ませば、遠くで鳴く梟の声が聞こえてくる。その音色に耳を傾けながら、美月はゆっくりと目を閉じた。デジタル機器から離れた生活は、美月に新たな気づきと深い癒しをもたらし続けていた。
◆
デジタルデトックスの旅も5日目を迎え、美月の心は今までにない静けさに包まれていた。この朝も、美月は自然のリズムに従って目覚めた。朝日が山々の稜線を染め始める頃、美月はゆっくりと目を開けた。
窓を開けると、清々しい朝の空気が肌を撫でる。美月は深呼吸をし、この瞬間の空気の質感を全身で感じ取った。鳥のさえずりが、まるで美月だけのために奏でられる朝の協奏曲のようだった。
今日の装いは、宿で借りた生成りの麻のワンピースに、自作の藍染めのストールを合わせることにした。鏡の前に立ち、髪をゆるくまとめる。化粧は、自家製のローズウォーターで肌を整えた後、ほんのりとしたチークを頬に乗せるだけにとどめた。
朝食は、宿の裏手にある小さな茶室で取ることにした。畳の香り、茶碗の温もり、そして窓越しに見える庭の風景。全てが美月の感覚を優しく刺激する。地元の米で作られた粥と、季節の野菜の煮物を口に運びながら、美月は食事そのものが瞑想のような体験だと感じた。
食後、美月は宿の主人に教わった呼吸法を実践することにした。庭の一角に座り、目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。吸う息、吐く息。その一つ一つに意識を向けていくうちに、美月は自分の内なる声がはっきりと聞こえてくるのを感じた。
午後は、近くの古寺を訪れることにした。苔むした石段を登り、本堂に足を踏み入れると、何百年もの歴史を感じさせる静寂が美月を包み込んだ。美月は、畳の上に正座し、静かに目を閉じた。お経の響きが、美月の心の奥深くまで染み渡っていく。
夕方、美月は宿に戻り、露天風呂に浸かった。湯船に身を沈めながら、今日一日の体験を振り返る。デジタル機器から離れたことで、逆に自分の内面との対話が深まっていくのを感じた。
夜、美月は持参したノートを開いた。ペンを走らせながら、今日の気づきを丁寧に書き記していく。
「静けさの中に、自分自身の声を聴く。それは、デジタルの喧騒の中では決して聞こえなかった、大切な声だったのかもしれない」
美月は、そう書き記した。窓の外では、満月が静かに輝いていた。
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