ep7-2 暗黒の中でもがく虫
「カレッジ! なんか、どんどんアリが集まってくるよ!?」
「数で押せば勝てるって? 考えが甘いのよ! ハアアア!!」
ブリスの言葉に答えつつ、カレッジはアリリンコを再び殴りつけ吹き飛ばした。
「でも、その割には距離を取ってこっちの様子を伺ってるだけのような……?」
ブリスはそう訝しげな声を上げる。ふふ、流石あたしの宿敵ねぇ、脳筋カレッジよりよっぽど頭が回るじゃない!
そして、ついに、この場に全てのアリリンコが集結し、あたしは両手を広げ叫んだ。
「さあブリス、カレッジ、とくと見なさい、これが暗黒魔女の真の力よ!」
「オプファー、何をするつもり!?」
ブリスが叫ぶ。あたしはニヤリと笑うと高らかに宣言したのだった!
「アリリンコたちよ、合体せよ!!」
その声と共に全てのアリリンコは光に包まれ……そして一つの巨大な姿へと変貌する。それはまさに超巨大蟻!! 全長は30メートル以上はあるだろうか?
いやまあ正確な大きさとかよくわかんないから適当に言ってるだけだけど。とにかくすごい迫力だ!
そんな光景を見てブリスとカレッジは驚きの声を上げる。
「な、なにこれ!?」
「こ、こんなのアリなの?」
二人の反応にあたしは満足気に笑う。そうよね? この大きさには誰でも驚くわよね!
「おーっほっほっほっほ、これがあたしの魔力で作りだした巨大アリリンコよ! さあ、覚悟しなさい!」
そしてあたしは高らかに叫ぶ。その叫びと共に巨大な蟻は二人の魔法少女に向けて突進を開始したのだった!
二人は慌てて左右に飛びのいてその攻撃を回避する。
「なんて迫力……まるでダンプカーみたい……」
冷や汗を流し呟くブリス、そんな彼女に向けてクルリと反転したスーパーアリリンコ(今名付けた)が蟻酸を発射する!
「きゃああああっ!」
ブリスは大げさな悲鳴を上げて後ろに飛び退き何とか回避する。
ん? この怯え方……どうやら昨日の件がトラウマになってるようね、また服を溶かされたりしたらたまらないってところかしら?
「さっきのアクアって人もそうだけど……アントリューズってなんでこんなえっちな攻撃ばっかりしてくるわけ!?」
ブリスは続けて発射される蟻酸を器用にかわしつつ叫ぶ。
アクアさんはともかくとしてあたしは作戦の一環としてやってるだけだから好き好んでそういう攻撃を繰り出してる思われるのはちょっと心外だなぁ……。
このコスチュームのせいでただでさえ変態扱いされてるというのに、これ以上変なレッテルを張られたらたまったもんじゃない。
けど、この手の攻撃どうもブリスに効果的っぽいし、勝利のためには手段を選んでられないよね。
「でりゃああああっ!」
しかし、ブリスはそうでもこちらは違うらしい。ブリスに掛かりっきりのスーパーアリリンコの背後に回り込んでいたカレッジは、スーパーアリリンコのお尻に向けて飛び蹴りをかました。
ドオオン! と前のめりに倒れ込むスーパーアリリンコ!
飛び散った蟻酸がカレッジの服に掛かり、一部を溶かすがカレッジは気にすることなくスーパーアリリンコに追撃を加える。
「このぉ!」
カレッジはそう叫ぶと倒れたままのスーパーアリリンコの胴体を殴りつける、するとそれに合わせるようにブリスも魔法攻撃を放つ!
「やあっ!!」
ブリスの放った光弾が直撃し大きく仰け反った隙を突き、さらに追い打ちをかけるようにカレッジが飛び蹴りを放った。
くっ、あの二人、今さっき初めて出会ったばかりのくせに息の合ったコンビネーションを発揮してるじゃない……。
「ぐぬぬ……」
あたしは思わず歯噛みする、これはまずいかもしれないわねぇ……。
こうなったら……!!
「スーパーアリリンコ! あたしの魔力を思いっきり注ぎ込んであげるわ!! さあ、やっちゃって!」
あたしはダークスティックを取り出すと、オドモンスターを生成するときの要領でスーパーアリリンコに魔力を送り込む。
「ちっ、しまったオプファーの存在を忘れてた……!」
「モンスターから放たれる魔力が、信じられないくらい強くなった……? オプファー、あなた自分の魔力のほとんどをこのモンスターに注ぎ込んでるわね!?」
「ふ、ふふ、その通りよ……」
焦ったように声を上げる二人の魔法少女にあたしは息も絶え絶えに答える。
流石に、これはしんどいわね……。でも、これでいいのよ!
「このスーパーアリリンコのパワーは、あなたたち二人がかりで倒せるほど甘くはないわっ!」
あたしは両手を広げて叫ぶが、カレッジが口元に笑みを浮かべて言い返してくる。
「それはどうかしらね? アタシとブリスの力があの程度だと思わないでよ? それに、あんたがモンスターに全魔力を注いだという事は、モンスターさえ倒せば、もうあんたには戦う力はないって事よね?」
「くっ……」
カレッジの言葉にあたしは思わず言葉を詰まらせる。確かに彼女の言う通りなのだ、もしスーパーアリリンコがやられてしまったら、もうあたしに戦う力は残っていないだろう。
「さあ行くよブリス! アタシの勇気とあなたの幸せパワーが合わされば、あんな奴に負けるはずがないんだから!」
「うんっ! 分かったよカレッジ!」
そんなやり取りの後二人はスーパーアリリンコに向かって駆け出す。そしてブリスとカレッジは先ほどよりさらに洗練されたコンビネーションでスーパーアリリンコを翻弄する。
「くっ、なんて奴らなの……」
あたしは歯噛みしつつ二人の動きを観察するが……。
「ブリス!」
カレッジはそう叫ぶとブリスのフォローに回るかのように彼女の前に躍り出る! そしてそのままブリスが攻撃しやすいように立ち回りつつ、自らも魔法攻撃を繰り出した! その隙を突き、今度はブリスが光弾を放ちダメージを与えていく。そんな戦いぶりを見せられてあたしは思わず感嘆の声を漏らしたのだった。
(認めざるを得ないわね……。あたしドキドキしてる……大好きだった魔法少女アニメさながらの光景に、あたしは今興奮している……)
悪の組織の女幹部暗黒魔女マギーオプファーとしてはあってはならない感情なのかもしれないけど、でもあたしはこの興奮を抑えることができなかった。
だって仕方ないじゃない! 好きだったんだもん、大好きだったんだもん! こんなの見せられたら、もう我慢できないよ!
しかし、思わず俯いてしまったあたしの目に自分の纏うコスチュームが目に入ってしまい現実に引き戻される、と同時にあたしの中からまた黒い黒い感情が湧き上がってくるのを感じた。
あたしは……こんなどうしようもない格好をさせられて、やりたくもなかった悪事をやらされて、大好きな魔法少女アニメを汚すような真似をさせられてるのに……なんで、なんであの子たちはあんなに楽しそうに戦ってるの!? あたしだって、本当は……魔法少女になりたかった! 悪の組織なんかじゃなくて正義の味方がよかった!
現実はいつだって残酷だ! だから、あいつらにもその苦しみを味わわせてやる! あたしの怒りが、魔力となりスーパーアリリンコに注ぎ込まれていく。
「ウ、ウソでしょ……なんでさらにパワーアップ出来るわけ……」
つうっと一筋の汗を流しつつカレッジが呻くように呟く。
「オプファー……なんでそこまで……? どうしてあなたはそこまでわたしたちを倒したいの? なんであなたは悪の組織にいて、悪事になんて加担しているの……?」
ブリスが悲し気な表情で言う。しかしその問いかけはあたしの中の黒い感情を刺激するだけだった。
「うるっさい! あたしはこのつまらない世界が大嫌いなのよ! どいうもこいつも人の邪魔をするばかりで誰も助けてなんてくれやしない! だからあたしはあたしたちみたいなはみ出し者が自由に、何の気兼ねもなく暮らせる『幸せの国』を作り上げるというアントリューズの――マリス様の崇高な計画に協力することにしたのよ! あんたたち魔法少女はあたしの幸せを邪魔する敵なのよ、だからあたしは戦うの!」
「ハッ、要するにただ世の中をひねてるだけってことね」
吐き捨てるようにカレッジが言う。その言葉に、あたしは思わずカチンときてしまった。
「違う! あたしがひねてるんじゃない、世界が歪んでるんだ!!」
しかし、そんなあたしの叫びに対して、カレッジは心底呆れ果てたような表情を見せると肩をすくめる。
「ダメだねこの子は。ブリス、こんな奴に負けてらんないよ? アタシたちは正義の魔法少女、悪に負けるわけにはいかないんだから!」
「う、うん! そうだよね!」
そんなやり取りの後二人は再びスーパーアリリンコへと攻撃を仕掛ける。
くそっくそっくそっくそっくそっくそっ! ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!!
あたしは何をやってるのよ……これじゃ本当に世の中をひねて悪事に手を染めている馬鹿そのものじゃない……。
でも、仕方ないんだ……どうせアントリューズを抜けることなんて出来ない……あたしの中にダークネスストーンがある限り、逆らえばあたしは死んじゃうんだ……!
あたしは死にたくなんかない、生きるのよ! それに、アントリューズは……マリス様は間違ってない! 誰もが気兼ねなく生きられる『幸せの国』を作ることの何がいけないの? あたしは間違ってない!!
あいつらがあんなことを言えるのだって、結局幸せの中にいるからじゃない! あいつらにわかるの? あたしの気持ちが!?
きっとあいつらは学校でも友達がたくさんいるんでしょうね。
だって同じ魔法少女の仲間とはいえ会ったばかりの相手とこんなに息の合った連携が出来るんだもの。
あたしなんか、学校でもずっと一人ぼっちなのに……。美幸だって、結局のところぼっちで可哀想なあたしを憐れんで友達になってくれただけに決まってる! それに、あの子は根本的にあたしとは違う。明るくて優しくて誰からも好かれてて……魔法少女アニメ好きという一点のみであたしと繋がっているだけ。あたしの中の孤独が完全に癒えることはきっとない。
不幸を知らない、孤独を知らないあいつらに、あたしを否定する権利なんかない!
そんなあたしの怨念めいた感情が乗り移ったかのように、スーパーアリリンコは魔法少女たちに猛然と襲い掛かる。
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