ep5-5 見せつけられた差
「それにしても、よく考えたクリね。見事ブリスを殺さずに、無力化出来たクリ」
「そうね……」
カメラを構えブリスのその部分を接写しながらクリッターが褒めてくれるが、実際我ながらいい作戦だったと思う。
同年代の女の子、しかもかつて夢見た魔法少女という存在であるブリスの裸体を世間に晒しているという事に罪悪感がないわけではないけど、殺すのに比べれば罪の意識なんてないに等しかった。
さほど心の痛みを感じることもなく目的を達成できる、こんな素晴らしい作戦が他にあるだろうか? いや、あえてないと断言しよう。
魔法少女を社会的に殺す、これ以上の策など存在しないだろう……ってね!
さて、後は念のために言質でも取っておきましょうか……。みんなの前で『魔法少女なんて辞めます』とはっきりと宣言させるのだ、ブリスは誠実そうだし、宣言しておいて後で『辞めるのをやめます』とは流石に言わないだろう。
あたしは、首を垂れ廃人のようになってしまったブリスに優しく声をかける。
「ブリス、これでわかったでしょ? 魔法少女なんて現実じゃこんなもんよ、これに懲りたら二度と魔法少女になんてならないことね、『マジカルブリス』はもう生きてはいけないほどの恥をかいたのよ? 普通の女の子としてひっそりと生きていくのがお似合いだわ」
「……」
答えることも出来ず、ブリスはただ声にならない音を口から発しているだけだ。もはや涙も枯れ果て完全に心が折れてしまったみたいね、まあ無理もないか。
「さあ宣言なさい、『もう正義の魔法少女なんて辞める』とね、そうすればあたしはあんたを解放してあげる、後はどっかで変身解除して完全に普通の女の子に戻っちゃいなさい」
詰め寄るあたしにゆっくり顔を上げるブリス、そして、これまたゆっくりと口を開く。
さっきあたしはブリスは完全に心が折れたと推測した、だってこんなのに耐えられる人間なんているはずはないから。
しかし、あたしの推測は間違っていた。魔法少女マジカルブリスは思った以上にタフだった。
彼女はこんなセリフを口にしたのだ!
「わ……わたしは、魔法少女マジカルブリスよ! 悪の女幹部に屈するわけにはいかないの!!」
そして、そのままあたしを睨みつけてくる。
「なっ……!?」
そんな、ここまでされても完全に心が折れないなんて……!
なんて精神力なの!? これが魔法少女……。
……ハッなるほどね、選ばれるわけよね……正義の魔法少女の変身者として。
あれだけ魔法少女に憧れてた癖に、悪の女幹部にされた途端、それに流されちゃうようなあたしとは大違いだわ……。
でも、だからこそ妬ましいのよ……!!
「こいつ……!!」
見せつけられた圧倒的差に湧きがる嫉妬心と怒りのままにあたしは腕を振り上げる。何をしようとしたのかはわからない、しかし、その腕が振り下ろされることはなかった。
「ファイターキーーーック!!」
「ぐぼはっ!!」
突如背中に走った衝撃にあたしは思わず前につんのめる。
「な、何事!?」
慌てて振り返るとそこでは……。
「マジカルブリスは、私が助ける!!」
さっきあたしが襲ったヒーローかぶれの女の子がこちらを睨みつけ、ファイティングポーズを取っていたのだ!
「あ、あんた……怖くはないの、あたしが……?」
「怖いよ、でも……」
少女はいったん顔を伏せると、次に顔を上げた時には強い意志を感じさせる眼差しであたしを睨みつける。
「傷つくことを恐れたら……地球は悪の手に沈むの!! 私はヒーローだもん、ヒーローになるんだから……私以外の誰がピンチを救うのよ!!」
彼女の瞳の中で煌めく稲妻、それは強く輝く正義の意思、ブリスにも匹敵――いや、超えているかもしれないそのあまりの眩しさにあたしは目を細め無意識に一歩後ずさる。
しかし、それはあたしのプライドをいたく傷つける行為だった。
この子、一般人のくせに!
イラッときたあたしは、無意識のうちに彼女に向けて手を突き出していた。
「ダークネスショック!」
コンクリートすら打ち砕く破壊の魔法を手加減もせずに放ってしまった瞬間我に返り後悔したがもう遅い、放たれた闇の波動は彼女へと一直線に向かう。
しまった……これじゃあたし、あの子を……。
しかし、あたしは何とか殺人犯にはならずに済んだ。何故なら、彼女に当たる直前に闇の波動は霧散したからだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……疑問を感じる間もなく背後から放たれる激しい魔力の胎動にあたしは思わず振り返る。
あたしの視界に飛び込んできたのは……。
そうか、そうよね……彼女は魔法少女……正義を守り、誰かを守る存在。どんなときにその力が最大限に発揮されるかなんて……考えるまでもないことだった。
「暗黒魔女マギーオプファー……! 許さない……。わたしはどんなに辱められてもいい、だけど、罪もない女の子を傷つけるのは許さない!!」
グモモーンの糸を引きちぎりその身体を切り裂き、ナメジックーを全て焼き尽くし、溶かされたはずのコスチュームを身に纏い、あたしを鋭く睨みつけながら彼女は言った。
「ウ、ウソでしょ……」
あたしは思わず後ずさる。しかし、そんなあたしのことなどお構いなしに彼女は続ける。
「魔法少女マジカルブリスが、あなたを、倒す!!」
「く……!」
彼女の迫力に気圧されながらもあたしは何とか踏みとどまる。しかし……。
「セイントフラッシャー!!」
「ぐはっ!」
彼女の技が直撃し、あたしは大きく吹き飛ばされた。
「ちょ、ちょおお!?」
むぎゅっと、倒れ込んできたあたしに潰されクリッターが悲鳴を上げるがそれを気にしていられる余裕はあたしにはなかった。全身を苦痛に苛まれていたからだ。
くあああっ、痛いっ、痛いよおおおおっ!! たった、たった一撃で、これほどのダメージを……!?
くううう、ミス、ミス……大ミスよ……。あと少し、あと少しだったのに、うっかりあの子を攻撃したばっかりに……。
あたしの目の前には、吹き飛ばされたときに落ちた計測器が転がっている。
そこにはこんな表示がされていた。
『レベル38』
さっ……さんじゅうはち……!? 通常時のブリスは14だったのよ!?
もう駄目だ、15のあたしが勝てるわけがない。
あたしは、絶望した……。
しかし、彼女はそんなあたしを見逃してくれるほど甘くはなかったのだった……。
しかも、さらに悪いことに今の彼女は怒りで冷静さを失っていた、彼女が放った次の一撃の中には明らかにある明確な意思が込められていたのだ。
「マジカルブリス・フルムーンインパクト!!」
そう、それはすなわち『殺意』、ブリスはあたしを確実に殺す気でいたのだ。
「う、うああ、うああああ……」
彼女の必殺技がこちらに向かって突き進む。
一瞬が永遠に感じられるほどの時間間隔の中、あたしの脳裏に様々な思い出が蘇る――ああ、これが走馬灯ってやつなのね……。
つまんない思い出ばかりだけど、美幸と出会って親友になってからは人生が楽しくなった。
美幸、あたしが魔法少女の敵、暗黒魔女マギーオプファーとして死んだと知ったらなんて思うかしらね。
……でもきっと、美幸はあたしのために泣いてくれるんだろうなあ。
ごめんね美幸、あんたを泣かせちゃうようなひどいことしてさ。
そんなあたしの目の前に迫るのは巨大な光の柱だ――ああもうダメか……さよならみんな、あたしは先に逝くわ!
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