ep5-6 仲間って素晴らしい! だけど負けた悔しさは消えないの!
「ガイアウォール……」
静かな、しかし力強い声が響き渡り、あたしの前方に巨大な岩の壁が現れる。
その岩壁は、ブリスの必殺技を受け一部を破壊されたもののしっかりと防ぎきっていた。
「な、何!?」
ブリスが驚きの声を上げるが無理もないだろう、自分の渾身の一撃を受け止められてしまったのだから。
ザッ……いつの間に姿を現したのか、倒れ込むあたしの前に人影が現れる。
「ガイアウォールを破損させるとはなかなかの一撃だな、マジカルブリスとやら。しかし、ワシの仲間を殺させてやるわけには行かぬのでな」
「あ、あなたは……」
ブリスが驚きの声を上げる。無理もないだろう、だって現れたのは……。
「ボーデンさん……」
そう、アントリューズ四天王の一人、大地の力を持つという物静かな巨漢ボーデンさんだったのだから。
「ボーデンさん、どうしてここに……?」
「ふむ、任務を終え帰還したところだったのだが、マリス様にお主が出撃したと聞いてな、少し様子を見に来たのだが、よもやこのようなことになっていようとはな……」
問いかけるあたしに、ボーデンさんは淡々とした口調で答える。
「仲間……? オプファーの……。あなたも、アントリューズなの!?」
ブリスが驚きの声を上げる。無理もないだろう、だって彼女はあたしとクリッター以外のアントリューズを知らなかったんだから。
「如何にも、ワシはアントリューズ四天王の一人ボーデン。お主の敵という事になるな。覚えておくことだ」
「四天王とか……。ピティー、わたし聞いてないよ?」
ブリスは厳しい表情でこちらを睨みつつも、チラッとだけいつの間にか意識を取り戻していたピティーを一瞥する。
「ピティーだって初耳ピティ。クリッターの奴、想像以上に大きな組織を作り上げてたみたいピティ」
苦々しい表情でピティーが吐き捨てる。
「それで、その四天王のボーデンさんが何をしに来たの? マギーオプファーの代わりにわたしを倒そうって言うの……?」
表情を変えずに尋ねるブリスに、しかしボーデンさんは「いや」と首を振る。
「元々ワシの任務はお主と戦うことではないし、今のお主の相手をするのは得策ではなさそうだ。それに、ダメージを受けた同胞をアジトに連れて帰らねばならんのでな」
「え……?」
ボーデンさんの言葉にあたしは思わず声を上げる。
この人は四天王中で一番物静かで、見た目は厳ついけど、実は一番優しい人なのかもしれない。
それに、悪の組織にだって悪の組織なりの絆が存在するのだ……。
今まで世間のどこにも居場所のなかったあたしにとって、彼の言葉はあまりにも温かかった。
「ボーデンさん……ありがとうございます……」
あたしは思わずそう口にしていた。
「ふむ。お主は……純粋なのだな。それだけに、哀れだ……」
後半部分は小声だったのでよく聞き取れなかったが、ボーデンさんはそう呟いた。
哀れ、とか言われたような気がするけど、どういう事なんだろう……?
しかし、そんな事を考える間もなく、ボーデンさんはあたしを抱え上げ肩に担ぐと、そのまま歩き始める。
「ま、待ちなさい!」
「魔法少女よ、マギーオプファーは今よりもっと強くなる。お主も負けたくないのなら、鍛錬を怠らぬことだ。ではな……」
呼び止めるブリスに告げると、ボーデンさんは大きく飛び上がり、建物の壁を蹴りながら、建物の屋上へと昇って行く。
「待って! オプファー!!」
ブリスの叫びが響く中、ボーデンさんはあたしを抱えたまま真っ赤な夕日に照らされた街と身を躍らせた。
「ちょ、ちょっと待っちクリ~!」
その後を、まるでお〇っちゃまくんのようなセリフを吐きつつ、クリッターが慌てて追いかけてくるのが視界の端に見えたのだった……。
「悔しい、悔しい、悔しいぃぃぃぃぃ!! せっかくあそこまで追い詰めたのに! まさか負けることになってしまうなんてぇ!!」
アントリューズのアジトビル。
自分用にあてがわれた部屋で、あたしは荒れていた。
「まあまあ、そんなに悔しがる必要はないクリ。ブリスの痴態を収めたカメラのデータはほらこの通り無事だったクリ、これを使えばあいつの精神に大きなダメージを与えられるクリ。強がってたけど、こうやって追い詰めていけば、そのうち魔法少女をやめたくなるはずクリ」
「そういうことを言ってるんじゃないのよ!」
怒鳴り返すあたしにクリッターは珍しく驚いたような表情を見せるがあたしは気にせず続ける。
「直接的なバトルであいつに負けてしまったって事実が、あたしは悔しくてたまらないのよ!!」
あたしは今日の戦いで二つもブリスにその強さを見せつけられてしまった。
一つは、衆人環視の前で下着を剥ぎ取られ大事な部分を晒されるという目に遭ったにもかかわらず、最後まで心が折れることはなかったという精神の強さ。
もう一つは、あのヒーローかぶれの一般人少女を守るために発動させた謎めいた超パワー!
あれはどう考えてもあたしの憧れた魔法少女の力そのもの、そしてそれはあたしを完全に上回っていた。
仮に心では勝てなくとも特訓で手にした力なら負けない……そう思ってたのに……。
「うう……」
あたしは思わず頭を抱える。そんなあたしをクリッターが慰めるように言う。
「まあまあ、でもあんなのは奇跡みたいなもんクリ、自由自在に発動出来てたら、今頃僕はこの世にいないクリ」
「そうかもしれないけど……。でも! あたしは絶対にあいつに勝つわ!」
あたしが宣言するとクリッターはニタッと笑う。
「その意気クリ。これからも悪の女幹部、暗黒魔女マギーオプファーとして、怒りと憎しみを糧に悪の道を突き進むクリ」
「ええ、もちろんよ! あたしはいつか必ずブリスを倒す! よしっ! 今から特訓よ!!」
あいつは想いで強くなるのかもしれないけど、強い想いならあたしにもある!
負けた悔しさ、憎しみ、妬み、嫉み、それらを糧にさらなる特訓を積んで、あいつがどれだけパワーアップしようが関係ないほどの力を得るのよ!
そう意気込みながら、クリッターがくれた例のドリンクをあおると、あたしは意気揚々とトレーニングルームへと向かう。
「クリッター、あんたちゃんとE作戦の総仕上げやっておいてね、ブリスの痴態の動画を色んなところにばら撒くのよ」
「分かってるクリ。任せとくクリ!」
部屋から出て行く直前に振り向き言ったあたしの言葉に、クリッターは自信満々に答えると、部屋のパソコンを器用に操作し始めるのだった。
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