ヘラクレイトスは分からない

@YAMIAKUI

デソスとヘラクレイトス

デソス「うぅ…人生上手くいかない事ばかりでそ…」



ヘラクレイトス「ふむそうか…シュボッ」



デソス「ふぁっ!?いつの間にランプを持ったジジイが小生の部屋に!?ママン!!ママンはどこでそ!?」



ヘラクレイトス「……」



デソス「不法侵入!!不法侵入!!こんな真夜中に!!い、いったい何者でそ!?」



ヘラクレイトス「…デソスよ」



デソス「な、何故デソスの名を知ってるでそ!?」



ヘラクレイトス「……東を向け」



デソス「…ひ、東?」



ヘラクレイトス「然り」



デソス「…えっと、おひさまが昇る方でそから…こっちの方でそ?…スッ」



ヘラクレイトス「……」



デソス「……」



ヘラクレイトス「我が名はヘラクレイトス。汝のお悩みを聞く為、ここに参上した」



デソス「…え?…え、えっと、東を向いた意味は?」



ヘラクレイトス「…太陽は、日々新しい」



デソス「……?」



ヘラクレイトス「して、日々新しい昼と夜を創る」



デソス「……??」



ヘラクレイトス「そして、そのどちらもが一つであり、二度と同じ日が訪れる事は無い」



デソス「………」



ヘラクレイトス「……汝、憂う物をこのヘラクレイトスに告白せよ」



デソス「…たった今一つ増えた所でそ」



ヘラクレイトス「その旨を述べよ」



デソス「…え?えっと…?太陽が…日々新しくて…その、もう少し…具体的に説明してほしいでそ」



ヘラクレイトス「セェアラァァァっ!!!!」



デソス「ぐはぁっ!!??」



ヘラクレイトス「セェアッ!!!ぐふっ!!」



デソス(な、なぜ小生は殴られた……?)



デソス(そして何故ヘラクレイトス殿は自分自身を殴ったんでそ…?)



ヘラクレイトス「…博識は、分別を教えず。知識を得たとして、決して叡智へと辿り着く事はないのだ…ダラリ」



デソス(…と、吐血しながら何か言っているでそ…)



ヘラクレイトス「…しかしデソスか。良き名だ……スッ…」



デソス(…ふ、ふたつサイコロを持った…?)



ヘラクレイトス「……コロコロン」



デソス(……床に放ったでそ…)



ヘラクレイトス「……6…と5……ふ、万事に渡り、運命による定めがある」



デソス「………」



ヘラクレイトス「……さて」



デソス(な、何一つ不思議な事が起こっていない…!!)



ヘラクレイトス「汝、悩みを告白せよ」



デソス(……こ、このお方は、)



デソス(ドキチガイでそ!!先に殺らなきゃ殺られる!!)



ヘラクレイトス「…ふむ、どうしたデソスよ」



デソス「ママン!!!部屋にヤバい奴がいるでそ!!このままだと享年がティーネイジになるでそ!!お助けくだされぇぇ!!」



ヘラクレイトス「…ママンは呼んでも来やしないぞ」



デソス「ひぇぇなんか魔王みたいな事言ってるでそぉぉぉぉ!!」



ヘラクレイトス「汝は解決したい事があるのではないのか?この吾に気兼ねなく、何でも尋ねると良い」



デソス「……本当にアナタを信用してもよろしいのでそか…?」



ヘラクレイトス「…もちろん、乾いているとも」



デソス「いッ!!意味不明ぇぇぇぇ!!せっかく話が進みそうだったのに一言余計でそ!!おどれは普通に受け答えたら死ぬんでそか!?」



ヘラクレイトス「………」



デソス(…だ、だめでそ。どの道、このお方を退けるには対話をするしか無さそうでそ…)



デソス「…じ、実は、小生は、学校でいじめられているのでそ」



ヘラクレイトス「ほう」



デソス「原因は分かっているでそ。小生は背丈が低く、恐ろしい程の撫で肩。ついたあだ名はレキュトス(油とか入れとく瓶)でそ。オマケにこのような奇妙な喋り方をしていれば、イジメの格好の的になる事は自明でそ」



ヘラクレイトス「……」



デソス「ですが、これらはママンとパパンと小生の生きる世界がくれた贈り物。小生はこの個性を潰してまで生きるつもりは無いでそ。でも、やはり揶揄されるのは辛いでそ。もう学校に行きたくないでそ……」



ヘラクレイトス「……」



デソス「…小生は…どうすれば良いのか…」



デソス(…なし崩し的に話してしまったでそ。でも、小生のこの悩みに、このお方がどんな回答をくれるのか、正直楽しみでそ…)



ヘラクレイトス「お」



デソス「……お?」



ヘラクレイトス「お〜〜〜ろかなりぃ〜〜ぃぃい」  



デソス「ええええええええ!!??」



ヘラクレイトス「汝、自らの智に固執しすぎ。向けられる言の葉にも一々揚げ足とってそう。厚顔無恥、昴首闊歩、傲慢不遜なりぃ〜〜」



デソス「でっそぉおおォォ!!クソジジィィィィ!!!」



ヘラクレイトス「……東を向け」



デソス「その取りあえず東向かせんのやめろぉ!!!!首が疲れるでそぉぉぉ!!!」



ヘラクレイトス「…汝、たぶん同年代よりちと賢いな。ちっとだけな」



デソス「…でそ?」



ヘラクレイトス「ちっとだけだぞ?」



デソス「デソォォォ...(殺意)」



ヘラクレイトス「その賢さが、汝を縛りつけている。少しを考え全てを理解した気になり、それらしい結論に飛びつき、ただ変化を恐れているのだ。汝は思考の肺活量が足りていない」



デソス「…では、小生はどうすればいいのでそ。小生にはいじめを跳ね除けるパワーも気力も無いでそ」



ヘラクレイトス「そも、汝は悩みを示していないではないか」



デソス「…でそ?…だから、小生はいじめられていて、でもそのいじめられている原因を直したくなくて…」



ヘラクレイトス「汝は、愚者は愚者のまま、賢者は賢者のまま永遠で在ると心から信じているのか?」



デソス「…もう少し簡単にお願いするでそ……スッ」



ヘラクレイトス「……ふむ、ガードを上げたな」



デソス「貴方説明求めると殴ってくるタイプでそ。学校の奴らと何も変わらんでそ」



ヘラクレイトス「……ふ、それで良い」



デソス「……?」



ヘラクレイトス「…万物は流転す。目的が存在する以上、形を変えた汝に相応しい刃が、形を変えて汝を襲うであろう」



デソス「……ん…んん?…つまり、いじめっ子はいじめる事が目的だから、小生が変わっても意味が無いって事でそか?」



ヘラクレイトス「然り」



デソス「…どのみち意味が無いなら、小生は変わらない方を選びたいでそ」



ヘラクレイトス「……汝、ママンを愛するか?」



デソス「…もちろん。大好きでそ」



ヘラクレイトス「パパンは?」



デソス「多少ママンよりティアは下がりますが好きでそ」



ヘラクレイトス「汝を虐めてくる思慮無き者どもは?」



デソス「無論嫌いでそ」



ヘラクレイトス「では汝、自身を愛するか?」



デソス「……今の、自分は、正直好きでは無いでそ」



ヘラクレイトス「…デソスよ。それでは何を選び、何を捨てる」



デソス「……でそ?」



ヘラクレイトス「優れる者は、あらゆるものを犠牲にしても、ただ一つの物を選ぶ」



デソス「…なんで、そんな事が言えるんでそ。本当に優れている人なら全てを守れたっておかしくないハズでそ」



ヘラクレイトス「然り。そして同時に否である」



デソス「でそ?」



ヘラクレイトス「万物は一であり、また一は万物である」



デソス「…まーた訳分からん事言って小生を惑わす気でそか?」



ヘラクレイトス「…この宇宙は、万物に共通するもので、神や人が作ったものではなく、これまでも、そしてこれからも、規則正しい手段で自らを燃やし、規則正しい手段で消えていく常在の火である……ボゥッ」



デソス(……ランプが消えて何も見えなくなったでそ)



ヘラクレイトス「デソスよ。今は何も分からなくて良い。そして、死ぬまで分からずとも良い……が、変わる事を恐れるな。戦いを恐れるな。見えずとも、己のロゴスを疑うな」



デソス「……」



ヘラクレイトス「死すべき事物に変え、不滅の誉れを…」



デソス「……小生の…誉れは」



パァァァァ



デソス「…でそ?もう朝日が昇ってきたでそ」



デソス「……あ、あれ?ヘラクレイトス殿は?」


 

コンコン


ママン「デソちゃま、朝餉を持ってきたザマスよ」



デソス「あっママン…あれ、さっきのは夢…でそ?」



ママン「…デソちゃま、今日は学校どうするザマス?体調が戻らないなら、無理をしなくてもいいザマスよ」



デソス「……小生は」



デソス(……!これは…)



ママン「デソちゃま?」



ガチャ



デソス「おはようでそ!ママン!」



ママン「あらあら!おはようデソちゃま!久しぶりに顔を見れて嬉しいザマス!」



デソス「…ママン。小生、今日からまた学校に行ってみる事にしたでそ」



ママン「あら!本当に?体調は良くなったザマスか?」



デソス「もう大丈夫でそ」



ママン「……あれ、そのサイコロはなんザマス?」



デソス「さぁ、万事に渡り、運命による定めがあるらしいでそので」



ママン「…やっぱりまだ熱があるんじゃないザマスか?」



デソス「……熱はありませんが」



デソス「十分に乾いているでそ」



〜END〜

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