第86話 新たな関係をよそに
「り、利央さん……どういうつもりなんだ」
優芽から飛竜への「セフレにして」という懇願。
それを耳にしたシャワー上がりの利央は、怒るどころか受け入れてしまった。
ゴム有りとキス無しを強いる交換条件を提示してのこととはいえ、それは飛竜にとって予期せぬ言動と言えた。
「端的に言えば、慈悲というヤツでしょうか」
優芽と対峙している利央は、そう言って言葉を続ける。
「優芽が病気で苦しんできたことを知っている私としましては、出来る限りの青春をこの子にお裾分けしてあげたいと思っています。ですが、飛竜くんに愛を持って接することはさすがに許容出来ません。ゆえにこれまでは否を示してきました。しかし」
「……今回は黄金井さんが僕との交際をすっぱり諦めてセフレに舵を切ったから、利央さんとしては譲歩の余地が生まれた、ってことか?」
「そういうことです。そのスタンスであれば、慈悲を与えてもいいかなと思いました」
一応、利央の中では明確な線引きがあったらしい。
それを今回、優芽がクリアしたということのようだ。
「で、でもお姉様……本当にいいの?」
優芽が恐る恐る問いかける。
優芽としては恐らくコッソリ肉体関係を持とうとしていたのだろうが、まさかの公認になれてしまったので混乱しているらしい。
「本当にいいのかどうか、その最終的な判断はもちろん飛竜くんに権限があると思っています。私が構わなくとも飛竜くんがダメだとおっしゃるなら、このお話はここまでとするつもりです」
とのことで。
最終決断は飛竜に委ねてくれるようだ。
利央らしい一歩引いた良妻スタンスなのかもしれない。
「さあ飛竜くん、どうなさいましょう?」
(とんでもない選択を突き付けられているな……)
優芽をセフレにするかしないか。
常識的に考えるならしないに決まっている。
けれど、病気で苦しんできた優芽に青春をお裾分けしたいという利央の意向は飛竜にも分かるし、パートナーの利央が既に了承しているのなら、優芽とセフレになることに壁はない、わけだが、
「……でも利央さんは本当にいいのか? 僕が黄金井さんのセフレを承諾した場合、本当に怒ったり悲しんだりしない?」
「むしろ身体の比較対象が生まれることで、私の良さをより実感していただけるのではと思っているくらいです。優芽の貧弱ボディーでは飛竜くんは満足にむすれないでしょうからね」
(思ったより前向き……)
「む……お姉様、あたしは身体だけの関係になるからには精一杯頑張るつもりよ。身体の乏しさは否定出来ないけど、お姉様に負けるつもりはないわ」
「むすん。生意気を言う前にまずは飛竜くん専用に開通しなければ話にならないこと、分かっていますか?」
「わ、分かっているわ」
「だそうなので、でしたら飛竜くん――」
そう言って利央が優芽の手を引いてパーテーションの裏から出てきた。
「――どうぞこの子を食べてあげてください。飛竜くんが生涯私の身体しか知らないまま過ごすのはどうかと思う部分もありまして。芸の肥やしと言いましょうか、様々な色を知ることで、動画制作者の糧になる部分もあるのではと思っています」
(あぁ、そういう思惑も……)
利央は飛竜と優芽の双方に利があると考え、今回の提案をしているのだろう。
それに、飛竜は結局優芽をないがしろにしたくない思いも依然保持している。せめてセフレになってくれと言うなら、利央が許す以上、それを拒む謂われはないわけで。
「分かった……なら僕は黄金井さんをセフレにするよ」
そこに愛はなく、肉体だけの関係だが、それによって優芽が救われるなら、こんなにもお安い御用はないはずだ。
そんな思いで告げた言葉に対し、利央がうむうむと頷き、優芽は嬉しそうに表情を綻ばせていた。
「であれば、ここからはもうヤるっきゃありませんね。――さて優芽、飛竜くん専用のお肉になる覚悟は出来ていますか?」
「で、出来ているわっ」
「では早速脱ぎ脱ぎしましょう。――むすむすむすむすっ……!」
「ひゃあっ……!」
利央が優芽の私服を剥ぎ取り始めていた。だいぶ乗り気なのは、優芽に青春(性春)を教え込みたいお姉ちゃん気質の表れだろうか。
まずキャミソールが脱がされ、あらわになったのはグレーのスポブラ。
包まれし胸は利央と違ってちんまく、谷間すら確認出来ないレベルだが、それが利央とのギャップでなんだか飛竜の心をそそった。
直後にはアッサリとそのスポブラまでもが脱がされ、ちんまい丘のてっぺんがお披露目される。ほんのり小さなつぼみは淡い桜色で、なだらかな丘全体はサイズの割にぷにっと柔らかそう。
飛竜はごくりと喉を鳴らさざるを得ない。
「うぅ……」
覚悟が出来ていようと恥ずかしそうにしている優芽をよそに、利央はそんなの知ったこっちゃなさそうに「さあ下もです」と優芽のショートパンツにも手を伸ばし始めている。
利央との行為後は下着一丁で涼んでいた飛竜の身体に再び奥底から熱が湧き上がり、臨戦態勢を整えていくことになるのはもはや必然であった――。
※side:紅葉※
ところで――
(うふふ、すごいことになってきたわ♡)
仮眠室前の廊下に、聞き耳を立てる人影があった。
それは言わずもがな、娘たちの様子が気になって仕方のない暴走オカンこと紅葉である。娘たちの情報を積極的に仕入れ、宗五郎に伝えるべきではない情報を選別し、影ながら娘たちを宗五郎から守るためにこういうことをしているのだが、ただの出歯亀精神なのも否定出来ないのはご愛嬌だろうか。
「(どうですか優芽、飛竜くんのココは)」
「(す、すごいわ、お姉様……)」
「(さあ、見ているばかりじゃなくてこうしてあげてください)」
「(あわわ……)」
仮眠室の中では今、奉仕の指南が始まっているようだ。
紅葉としては、ドアの向こうで繰り広げられている爛れた状況は別に構わないと思っている。
娘と姪と将来の義息がそれぞれ納得しているなら、野暮な真似はしない。
まして優芽の青春を救済するための新たな関係だというなら尚更だ。
(でもこれがもし宗五郎さんにバレたらタダじゃ済まないわね……)
宗五郎は潔癖寄りの人間だ。優芽とも愉しんでいることがバレれば、良い状況にはならないだろう。
「(さあ優芽もやるんです。手でも、いきなり口でも、お好きなように)」
「(じゃ、じゃあ……あむっ!!)」
なんだかすごいことになっている仮眠室の内部。
優芽が着実に大人の階段を登り始めているそんな中、危惧する事態は起こるモノで――
「――なんだ紅葉、こんなところで何をしている?」
「!?」
突如事務所の廊下に木霊したのは、澄んだ低音ボイス。
恐る恐る入り口のドアに目を向けた紅葉は、
「あ、あなた……」
そこに佇むインテリヤ○ザじみた和装眼鏡の夫を捉え、ごくりと緊張の唾を飲み込むことになるのであった。
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