第66話 無理がたたりつつ

 優芽をSTRの広報に勧誘したい、と考えつつ迎えた翌日、飛竜には少々問題が発生していた。


 というのも……、


(……うわ、38度……)


 朝起きて「なんかダルいな」と思って熱を測ってみたらコレである。


(……僕にしてはハードなスケジュールが続いていたから、ここに来て疲れが炸裂した感じか……)


 今月初旬まで続いたショートフィルム第一弾の撮影と編集、それからキャンプに出掛けて海にも行って、そしてこのお盆期間中はショートフィルム第二弾の撮影と編集……。

 陽キャにも負けない忙しなさであり、身体と頭を酷使していたのは間違いない。


(幸いにも症状は軽いし、今日しっかり休めばなんとかなるかも……)

 

 ちなみに帰省中の家族が帰ってくるのは明日なので、飛竜は今日も1人だ。

 

(……誰かの看病が欲しいわけじゃないけど、一応利央さんには連絡しとくか)


 そんなこんなで利央に【熱が出た】と報告してみれば――


「――だ、大丈夫ですか飛竜くんっ」


 10分後、利央が颯爽と秋吉家にやってきてくれた。

 肩で息をし、髪が乱れているところを見るに、慌てて走ってきてくれたようだ。

 ありがたい限りである。


 別に優芽が一緒だったりはしなかった。

 優芽は丘の別宅で過ごしているため、情報が共有されていないのだろう(飛竜から連絡していないのは、単純にまだ優芽の連絡先を知らないため。知っていたとしても連絡したかは分からない)。


「コンビニで栄養ドリンクや熱冷ましの湿布を買ってきました」

「ありがとう……ていうかごめん。まだ8時前なのにバタバタさせて」

「気にしないでください。5時には起きてまったり過ごしていましたから」


 利央が早起きなのは早朝にジョギングをしている影響だったか。

 となると、それを済ませたあとのまったりタイム中だったのは本当なのだろう。


「症状は本当に熱とダルさだけです?」

「今のところは」

「でしたら酷くならないうちにしっかり休みましょう」


 利央に促されるがまま、飛竜は起こしていた上体をベッドに横たわらせた。


「何かあれば言ってくださいね」

「今はひとまず大丈夫。……あぁでも」

「はい?」

「ちょっと相談。……看病とは何も関係ないんだけど、実は黄金井さんをSTRの広報として招こうかと思ってるんだ」

「……優芽を広報にですか?」

「僕らはSNSの運用に長けてるわけじゃないし、そういうのに手慣れてる黄金井さんを頼りたい感じ。……でも利央さんはそれに賛成してくれるか?」


 STRは飛竜のチャンネルだが、利央ナシでは成り立たないモノだ。

 なので利央の意見もしっかり訊いておきたかったのである。


「良いと思いますよ」


 返事はシンプルな肯定だった。


「実際、チャンネルを大きくしていく上でSNS戦略を疎かにしていいはずがありませんからね」


 理解のある言葉。

 けれども、


「ただし絶対、優芽には隙を見せないで欲しいです」


 やはりその点を警戒しているようだった。


「優芽は虎視眈々と飛竜くんを狙っていますから、広報を引き受ける代わりに、と何か交換条件を出してくるかもしれませんし」

「うん……そこは僕も警戒してる」


 広報するから付き合ってっ、などと言われたらどうしようかと思っている。


「でも話してみないことにはどういう反応が来るか分からないし、とりあえず今から黄金井さんのこと呼んで貰ってもいいかな? 僕連絡先知らないし」

「え、今は安静に――」

「話すくらいは問題無いからお願い」


 そう告げると、利央は仕方ありませんねと言わんばかりにひと息吐き出し、スマホを操作し始めたのであった。








――――――――――――――

すでに次話も投稿されていますが、

元々今話だったモノを長いので分けたものです。

(この話が薄味なのはその影響です)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る