第62話 定まる構想
「お盆だけど、利央さんは墓参りとか帰省はしてないんだな」
「お墓も祖父母もこの街に固まっていますので、諸用は午前に済ませてきたんですよ」
「なるほど」
むすーさん、もとい利央を部屋に招いた昼下がり。
飛竜は学習机の椅子に腰掛け、クッションに座る利央に身体を向けて会話中だ。
お互い、飛竜が用意したアイスコーヒーを飲みながら、である。
「飛竜くんこそ帰省などはなさらないんですか?」
「僕は留守番を請け負ったんだよ」
本日の秋吉家には飛竜しかおらず、良吉、希実香、梓紗の3人は父方の祖父母宅に帰省している。
飛竜が帰省に加わらなかった理由は、単純にめんどくさいから、というなんとも不義理な動機だが、祖父母との交流に関しては割と日頃から通話をしているので充分だったりする。
「ということは、現状は久しぶりに飛竜くんだけのご自宅なんですね?」
「そう。めっちゃ落ち着く」
「そして今は夏休みの課題をやりながら次作の構想を練っていた、と」
「その通り」
「もし構想にお悩みでしたら、私渾身の『むすーさん』ネタを使用していただいても構いませんけれども。むすむす」
「むすーさんは内輪ネタ過ぎるからやめとくよ」
「むす……」
しょぼんとする利央なのであった。
「それに第二弾の構想自体は一応思い浮かんでてさ、ホラーモキュメンタリー……モキュメンタリーホラーって言う方が正しいのかな。それを撮ろうかなと。細かい部分は全然詰められてないんだけど」
「ふむ、モキュメンタリーホラーですか。ドラマ仕立てじゃなくてドキュメンタリー形式で撮るホラーフィクションのことですよね?」
「まさしく」
ウソか本当か曖昧な領域。
視聴者に「ウソ話なんだろうけど、なんかリアルだなぁ」と思わせるのがモキュメンタリーの在り方である。
そのホラー版を撮りたいのが、飛竜の次作構想だ。
「僕らの規模でやれるモキュメンタリーホラーは、心霊スポットの撮影記録、かな」
「よくあるヤツですね。撮影者の一人称視点で進んでいくタイプの」
「そう。色々ハプニングに遭遇しながら心霊スポットを探索してって、最後に撮影者が危機に瀕してカメラを落とすんだよな。そんで画面外から撮影者の悲鳴が聞こえてきてエンドロール、っていうのが定番な気がする」
「ですが、この辺りに心霊スポットってないですよね?」
「まぁガチのところに突撃する必要はないし」
あくまでフィクション。
なんの変哲もない場所をロケ地にしても問題はない。
怪奇現象は演出でどうにかすればいいのだ。
「利央さんちの別宅がある神社裏の丘……あそこってほぼ山みたいなもんでおどろおどろしい雰囲気があるから、ロケ地として活用出来そうじゃないか?」
「ふむふむ、我が家の私有地ですからね。色々やる分にはちょうどよいかと」
言いながら、利央は少し考える素振りを見せる。
「しかしあんな草木が生い茂っただけの丘をどうやって面白く演出するんですか?」
「演者の配置しかないな」
飛竜はアイスコーヒーをひと口飲む。
「たとえば、利央さん扮する不気味な和装女を木々の合間にスタンバイさせておく、とか」
「その場合、撮影者の役は飛竜くんが?」
「そのつもり。単独で心霊スポットに突撃しに来たアホ配信者役、かな」
「ふむふむ。そして私はワッと驚かせるんです?」
「お化け屋敷じゃないんだからそんなビックリ要素は要らない。一例としては、利央さん扮する和装女は最初とある木の傍で不自然にしゃがんでるんだよ。それを僕が見つける」
「ふむ」
「そんで『大丈夫ですか?』って声を掛けるんだけど、女は無反応。だから僕は気にせず先に進むわけ。そしたら背後から足音がし始めて、声を掛けても無反応だった女がなぜか付いてきてて僕がヤベヤベ言いながら奥へ逃げてしまい……、っていう導入の仕方が、ひょっとしたら面白いかもしれない」
「おー、良いじゃないですか。もうそういう流れにしましょうよ」
利央は飛竜の即席導入部が気に入ったらしい。
「ホントに良いと思う?」
「そこからのメリハリとオチが定まれば充分かと。ちなみにその和装女がショートフィルム第一弾の主人公ちゃんだったりすると、登録者のリスナーは『おっ』となるかもしれませんね」
「あー、なるほど……それはアリかも」
ショートフィルム第一弾の主人公ちゃんを皆勤賞にさせることで、
しかも主人公ちゃんが出てくることでショートフィルム第一弾との繋がりが発生するため、その縦軸をSTR独自の要素として確立していけば、他のチャンネルとネタ被りすることもなくなるはずだ。
「主人公ちゃんがなんで心霊スポットに居るのか考察の余地が生まれるのも良いな」
アフター動画で警察に追い詰められたあと、彼女は警察を皆殺しにして助かったのか。それとも色々あって亡くなり、怨霊化しているのか。
その辺の判断は視聴者に委ねつつ、心霊スポット突撃カメラに映り込む主人公ちゃんを楽しんでもらえばいいのかもしれない。
「では早速今夜、撮りに行きます?」
「絵コンテ作りが先かなと思いつつ、やりたいことは見えてるからアフター動画と同じくぶっつけ本番で行こうか。モキュメンタリーは素人っぽいカメラワークの方が臨場感出るだろうし」
シナリオ面だけ細かいところを夜までに詰めて、神社裏の丘で撮影することになりそうだ。
「でも利央さんは夜の予定大丈夫? ちょっと遅めに撮るかもだから、ほら、親父さんが……」
「撮影の大義名分があれば問題ないかと。あ、でも」
「……何か?」
「出演料――先にいただきましょうか」
そう言って衣服を脱ぎ始めているのは、どうやらそういうことであるらしい。
出演料がそれでいいのはお安い御用。
とはいえ、
「出演料がそれでいいって、利央さんは男性高校生か何か?」
「……えっちな女の子は嫌いです?」
どこか不安げな上目遣いが飛竜を捉えてきた。
だから飛竜は首を左右に大きく振って、このあと利央に出演料を注ぎ込んだのである。
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