第17話 編集
「祭りの映像データ約10時間分の編集か……はあ、気が遠くなるよ」
「ふふ、ファイトですよ飛竜くん」
さて、お祭りの翌日。
月曜の放課後を迎えている。
この時間、自宅で利央とのセフレ契約をこなした飛竜は、シャワーを浴びたあとにPCを立ち上げていた。
今の会話通り、祭りの映像データを編集するためだ。
映像記録を役所に提出するにあたって、冗長に思える部分や不必要な箇所、不適切なシーンはすべてカットするように言われている。
ざっと10時間分の映像精査――飛竜がこれからしなければならないことがそれだ。
「地味に大変ですよね」
「派手定期……かは置いといて、まぁ提出期限まで2週間あるのが救いかな。編集作業の練習にもなるし」
編集面に関してもまだ勉強中なので、実践機会としてはちょうどいいと言える。
報酬も出るので文句はなかった。
「一番力を入れて精査&カットしないといけないのは、やっぱり花火のシーンですよね?」
「……異議なし」
昨晩のフィナーレの時間。
花火を撮影する一方で、飛竜と利央は身体を交わらせていた。
映像音声に喘ぎや会話が入っていないとは限らないし、それこそ淫らなモノが映り込んでいる可能性だってある。
血まなこになって精査しないといけない。
「今からちょっと確認してみません?」
「2人で一緒に?」
「はい。きちんと精査しなければならないシーンだからこそ、2人の目で確かめるべきかと」
「一理あるか……」
あのシーンを利央と見るのは気恥ずかしさがあるものの、背に腹はかえられない。
飛竜は編集ソフト内でシークバーを動かし、花火のシーンへ。
ぱん、ぱぱん、と大輪を咲かす花火の様子が映り始める。
このときの2人は普通にヤっていたが、まったりとした座位だったためか手ぶれは感じられず、喘ぎに関しても炸裂音に掻き消されており、映像自体は極めて健全だ。
「意外と問題ないんですかね……?」
利央がホッとしたように呟く一方で、花火が次の演目に移行するためのインターバルに突入し、画面内が少し静かになった。
そのときである――。
『……ナマ、すごいですね……♡』
「「!?」」
マズい音声が流れ始めた。
『飛竜くんはナマ……いかがです?』
『や、ヤバいよ……薄皮1枚ないだけで、こんなに違うもんかって感じ……』
『ですよね……私もなんだか、すごく良くて……♡』
「――アウトアウトアウト……!!」
飛竜は一時停止ボタンを押して頭を抱えた。
共感性羞恥というかダイレクト羞恥が刺激されてまともに聞いていられなかったのである。
「……モロに入っちゃってましたね、音声」
「モロ過ぎるよ……! 提出前に若菜さんのお父さんも見てチェックする予定だからもしこんなの聞かれたら……!」
「エンコ詰め確定ガチャがメールボックスに届きますね」
洒落になってない。
「へ、編集頑張らないと……」
こうしてその後、利央が帰るギリギリまで花火シーンを2人で精査し続け、とりあえずその周辺の映像に関しては健全化に成功した。
「なんとかなりましたね。では私、今日のところはそろそろ」
「あ、うん、協力してくれてありがとう。……それとさ」
「はい?」
「僕は、その……無責任になるつもりはないから」
「? 無責任というのは?」
「ほら……さっきの映像にもあった通り、昨日はアレを着けなかったけど、もし何かあれば責任は絶対取るから、ってこと」
薬を服用し始めたから、と利央に誘われて言われるがままだったが、一方で飛竜の中には覚悟がある。
それを言葉に変えて利央にきちんと示しておきたかったのだ。
すると、それに対して利央は、
「ふふ。割り切り相手に何を言っているんです?」
と、茶目っ気のある笑みを返してきた。
「割り切りなんですから、そういう情は不要かと」
「いや、でも……そういうわけには」
「気持ちだけで充分嬉しいです。私としても若くして孕むわけにはいきませんので、その辺りのことはきっちり考えてやっているつもりです。なので心配は要りません」
「……ホントに?」
「はい。ですが飛竜くんのそういうところ、すごく好ましいですし、そういうマインドの男の子だからこそ、安心して身体を委ねられるんです」
「若菜さん……」
「もし飛竜くんに現時点で責任を取れる部分があるとすれば、そうですね……私以外の女子とは余計なことをしない、ってことでしょうか。私のことだけ、見ていてもらえますか?」
ジッ、と目を覗き込まれる。
割り切りだと言いつつ、その魅了で飛竜を呑み込まんとするような、魅惑の眼差し。
そんな視線と共にぶつけられた問いかけに対して、
「もちろんだよ」
首を縦に振らないという選択肢は、飛竜の中には当然なかった。
「ありがとうございます。では引き続き編集作業頑張ってくださいね? 今月は定期考査もありますし、無理だけはなさらないように、です。ではでは」
小さく手を振りながら、利央が部屋から立ち去ってゆく。
途端に静かになった自室にはなんだか寂しさを感じてしまうが、そんな感傷に浸っている余裕はまるでない。
「勉強、編集、週2でバイトだってある……やることは多いけど、まぁ、青春っぽくていいような気がする」
今までにない充実感を心地よく思いながら、飛竜は再び編集ソフトの画面と向き合ったのである。
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