第10話 行くか、行かないか

「え、遊園地のペアチケットですか?」

「うん。ファミレスの店長から貰ったんだけど……素直に使うべきか、換金してカメラ資金に回そうか、迷っててさ」


 翌日。

 この日はシフトが入っておらず、飛竜は利央との情事に明け暮れるいつも通りの放課後を過ごしている。


 飛竜の部屋でヤることをヤったあとの、現状はベッドの上でのトークタイム。


 穏やかな時間が流れるそんな中、飛竜は昨日貰った遊園地のペアチケットについて話をしている。


「若菜さんはどうしたい? 遊園地に行きたいか、そうでもないか」

「私に選択権があるんです?」

「まぁ、僕がペアチケットを消費出来る相手は若菜さんくらいしか居ないし」

「ふむ……単なる割り切りセフレを遊びに誘おうだなんて、それは割り切りの趣旨に反した浅ましい思考ではないでしょうか」

「若菜さんがそれ言っちゃダメね?」

「ま、行きたいですがね」

「しかも行きたいんかい……」


 完全にお断りの論調だったのに。


「そりゃ女子は遊園地大好きですので。私はインドア派なのでそんなに好きじゃないですけど」

「ど、どっちだよ……」

「そんなに好きじゃないですけど、飛竜くんとなら行きたいというスタンスです」


 そう言って肌を密着させてくる。

 互いにまだ一糸まとわず。

 色々とたまらない。


「ですが、カメラ資金に回して欲しい気持ちもあります」

「……そう?」

「はい。飛竜くんが高価なカメラを扱いきれないところを早く見たいので」

「悪趣味すぎない?」

「というのは冗談で、ちょっとずつ夢に向かって進んで欲しいので、そっちに資金を回してもらった方が安心と言いますか」

「若菜さん……」

「遊園地に行くとなれば、チケットのおかげで入場料やアトラクションはタダでしょうけど、食べ物代や交通費は結局掛かってしまいますし、散財しますよね? それが心配です」

「……確かにな」


 チケットがあっても全てがタダにはならない。

 

 遊園地に行けばカメラ資金は減ってしまう。


 しかしだ。

 

「そういうの、気にしなくていいよ」


 飛竜はそう告げた。


「前にも言ったけど、別に夢に向かって生き急いでるわけじゃないし、マイペースにコツコツ前進出来ればそれで良くて、普段の生活を犠牲にしてまで優先するつもりはないっていうか」


 夢に全力はきっと疲れるので、緩く進んでいければそれでいい。

 夢に全力もかっこいいが、飛竜はあくまで省エネ主義のエンジョイ勢としてやっていきたいのである。


「勉強とか色々、他にも頑張らなきゃいけないことはあるしさ、羽伸ばせる機会に伸ばすのって結構大事だと思うんだ」

「ですね」


 利央は穏やかに頷いていた。


「ですが、遊園地に行って本当にカメラ資金は大丈夫です?」

「バイトしてればいずれ貯まるし大丈夫。むしろ若菜さんは大丈夫か? 遊園地に行ったら家の人に何か言われたりしない?」

「誤魔化して伝えれば平気です。あとは門限さえ守れば」

「そっか……じゃあ行くことで決定?」


 最終確認のつもりで訊ねると、利央はこくりと頷いてみせた。


「もちろん行きましょう。私は別にこれっっっっっっっっっっぽっちも行きたいとは思っていませんが飛竜くんが行きたそうなので行くしかありませんねええしょうがないですね」


(……これ絶対若菜さんの方が行きたがってるヤツだ……)


 しかしそこを追及すれば火傷しそうなので何も言わないことにした。


 そんなわけで、遊園地には行くことになりそうである。


「さてと、では週末は色んなアトラクションに乗って楽しもうと思いますが、この時間はもう一度飛竜くんにライドしましょうか」

「え、もっかい……?」

「昨日出来なかった分です♡」


 そう言って唇を重ね合わせてくる利央。


 割り切りとは思えない情熱っぷり。


 飛竜はそれに呼応して、このあともう一度頑張ったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る