第7話 将来のこと

「飛竜くんは将来トラックドライバーになるんですか?」


 そんな疑問を投げかけられたのは、週明けの放課後のことだった。


 週2ペースだったセフレ関係は、今や週3ないし週4になっており、感覚としてはほぼ毎日お楽しみに耽っているようなもの。


 この放課後もそうで、現状は飛竜の部屋でヤり終わりのピロートーク中。


 まだ互いにベッドの上。


 多少汗ばんだ状態で、利央にくっつかれている。


「……トラックドライバー? 僕が将来?」

「はい」

「いや……なんでそうなると思ってんの?」

「だって飛竜くんのご両親はどちらも」

「あー……確かにそうだけど、実情を知ってるからこそ絶対なりたくないんだよな」


 長距離トラックの運転手をやっている飛竜の両親。

 

 そんな2人はあまりにも忙しない。


 基本的に高速道路で生活しているようなものであり、自宅に帰ってくるのはひと月に数回程度。


 父も母も運転が好きで、かつ高給だから続けているそうだが、そうじゃなかったら辞めてる、と口を揃えて言っているのだ。


「高速道路に封じ込められる生活は御免だよ」

「じゃあ飛竜くんは将来どうなりたいんですか?」


 割り切りなのに深掘りされる。

 毎度お馴染みになってきたこの流れ。

 飛竜はやれやれと思いつつも、


「まぁ……将来の夢はまた漠然としかないよ」


 と応じた。


「漠然とでもあるなら、是非その詳細を聞かせてください。飛竜くんのこと、もっと知りたいですから」


 より強く密着されながら、甘えるような上目遣いでそう言われた。

 このおねだりを拒否出来る男子は恐らく居ない。

 無論、飛竜も例外ではなかった。


「……映像撮ってみたいな、って思うことがあるんだ」

「映像? 要は映画ですか?」

「まぁ別に映画じゃなくてもさ、今の時代は動画サイトとかSNSがあるわけで、そこにクリエイティブな映像作品を投稿してバズればそれが商業路線に乗ったりするのが当たり前の時代だろ? 夢あるよなぁ、って思ってるんだ」


 飛竜的に誤解されたくないのは、別にバズ目的のやかましい動画投稿者になりたいわけではないのである。

 きちんと映像作品を作って、それを観てもらいたい、という考えだ。


「もっとも、最初に言った通りまだ漠然としてるから、具体的にああいうの撮りたい、こういうの撮りたい、っていうアイデアは全然ないんだけどな」

「いいじゃないですか。素敵だと思います」


 利央は穏やかに微笑んでくれた。


「夢があるという状態それ自体が、とても大切だと思うんです。目的のない人生はダレそうですから、それが漠然としたモノであれ、あるならよいのかと。具体性はこれから生み出していけばいいわけですし」

「……かもな」


 なんだか背中を押され、支えられているような気分になった。

 利央と一緒に居ると、いつだって気分が安らぐ。


「そう言う若菜さんには夢ってあるのか?」


 と、逆に訊き返してみれば、


「そうですね……堅苦しい家からの解放、でしょうか」


 と応じられ、飛竜は少し返事に困った。

 利央が言葉を続けてくる。


「とはいえ、今もある程度の自由はあります。娯楽が禁じられているのと、門限が18時半までと明確に定まっていてそれ以降は外に出してもらえないのが面倒ですけど、それ以外は普通ですから」

「……それがある時点で普通ではないけどな。前者は特に」

「ですね。だからこそ、いずれもっと普通な状態へと解放されたいわけです。なので大学に関しては、家から独立しないとダメな距離感のところに進もうと思っています」

「そっか」

「はい。なので飛竜くんにも同じ大学を受けて付いてきてもらわないといけませんね」

「え」

「ちょっと頭の良い大学なので、勉強はしっかりお願いします。飛竜くんは確か、成績がそんなによろしい方ではなかったですよね?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……」

「はい?」

「いやあのさ……なんで僕も同じところに進学する必要が?」

「は? 割り切り関係を続けるため以外にあるんと思うんですかこのこの」


 頬を膨らませたやや半ギレの表情で利央がを断続的にむぎゅむぎゅしてくる。

 飛竜は「あぎゃ……」と悶絶するしかない。


「まさか高校でこの関係を終わらせるつもりですか?」

「い、いや……終わらないでいいなら終わって欲しくないけど……」

「だったら一緒の大学に行きましょう」

「……割り切りなのに?」

「割り切って行くんです」


 分かるような、分からないようなニュアンスだった。


「そうと決まれば、これからは都度勉強会を開くことにします。今日は門限ギリギリまで勉強を叩き込んであげますので覚悟するように」

「う、うっす……」

「でももう5分だけ、このままくっついていましょう」


 そう言って密着を深めてくる利央。


 そんなセフレにあらがうことは、もちろん出来そうになく――、


「――それ解き方間違ってますっ」

「う、うっす……」


 密着タイム後にビシバシ指導されることになったが、新たな繋がりを得られたことに文句などあろうはずがなかった。

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