第6話 なんですかコレ

「――飛竜くん、なんですかコレ」


 週末。

 ストレス発散のセフレ行為のために利央が飛竜の自宅を訪れている。


「そ、それは……」


 行為に及ぶ前にシャワーを浴びてきた飛竜がパンイチで自室に戻ると、先にシャワーを浴びてバスタオル姿で待機していた利央にとあるモノを突き付けられた。

 

 飛竜はうろたえる。


 なんせ利央が突き付けてきたモノは――エロマンガの単行本。


 利央来訪時にいつも隠しているヤツだ。


 所持がバレたら恥ずかしいがゆえに。


「ベッドの下に何かあるのではと興味本位で覗いてみたら、まさか本当にこういうモノが隠されているとは思いませんでした」


(……隠し場所が安直過ぎた)


「しかも複数冊。やれやれですね」


 利央はエロマンガをパラパラとめくり始めている。


「『いっぱい出せて偉いね~♡ もうちょっと頑張れるかな~?』、ですか」

「ちょ、朗読やめい!」

「『今度は外じゃなくて赤ちゃんのお部屋、満タンにしてね♡』、ですか」

「やめてくださいお願いします!」

「ふむ……こういうので致すこともあるんですか?」

「え、それは……」

「別に怒ったりしないので正直に言ってください」

「……まぁ、ある……かな」

「むっすー」


 利央は見るからにほっぺを膨らませておこモードになり始めていた。

 前言撤回が早すぎる。


「まったく……私というものがありながら、なんでこういうので致すんでしょうかね。信じられません。私との行為よりも、こういうので致す方が濃いのが出るということですか?」


 明らかに詰められている。

 割り切りセフレにあるまじき感情のお披露目だが、飛竜はとりあえず言い繕うしかない。


「いや……若菜さんとする方が何百倍も気分が良いよ」


 それは本音である。


 エロマンガから得られるのはあくまで視覚的な刺激のみ。

 

 一方で利央との交わりは柔らかな肌のぬくもりまでプラスされる。


 それ以上の快楽なんてあろうはずがない。


「ふーん、そうですか……じゃあもうこういうので致さないって約束出来ます?」

「え」

「だって私とするのが一番良いんでしょう? だったらもうこういうのでしなくてもいいですよね?」

「そ、それは……」

「もちろんその分、私がきっちり処理してあげますから」


 そう言ってベッドから立ち上がると、バスタオルをはらりと落としてその綺麗な裸体をあらわにさせる利央。

 

 飛竜の視線がその蠱惑の塊に釘付けとなる一方で、利央はくすりと微笑みながら飛竜に近付いてきて、唯一の衣類たるボクサーパンツを下ろしにかかってきた。


 そうして一糸まとわぬ状態となった飛竜に対して、ぎゅっと抱きついてくるのだからたまらない。


「いいですか飛竜くん? 私でだけ、良い気分になってくれないとダメですよ?」


 それから唇まで重ね合わせてくるのだから、飛竜としては色々と参ってしまう。


 頭がぼーっとし、理性が削ぎ落とされそうになるのだ。


 そんな中で思うのは、


(……若菜さんってどう考えても僕のことが好きなんじゃ……でも、それが思い過ごしだったら恥ずかしいだけっていう……)


 利央本人は、あくまで割り切りと言っている。


 であるからには、踏み込むに踏み込めず、


(……これからも悶々とさせられそうだ)


 しかし他の男子がどれだけ手を伸ばしても、この地位は得られない。

 

 だからそんな立場に居られる自分を誇らしく思いながら、飛竜は今日も利央のストレス発散に付き合い、


「すごく、良かったです。ではまた週明けに」


 ちゅ、と別れ際にキスをされる。


「ちなみにですけど、どうしても自分の右手で気持ち良くなりたいとおっしゃるなら、あとで良いモノを送って差し上げます」


 良いモノ……? と小首を傾げた飛竜はその夜――


「うわ……」


 利央から大量の超絶エロ自撮りが送られてきてビビったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る