第3話 それでよければ
「なあ若菜さん……僕らって割り切りのセフレ、なんだよな?」
「はい、そうですけど」
「……じゃあなんで書店巡りに付き添ってんの……?」
この日の放課後、飛竜は目当てのラノベを買うために駅前の書店を訪れていた。
1人で訪れたつもりが、気付くと隣にはセフレのクラスメイト・若菜利央の姿が。
ラノベコーナーに不釣り合いな黒髪美少女。
飛竜は少し気恥ずかしくなって物色の手が止まってしまう。
「お気になさらず」
「いや気にするって。……最近距離感おかしいよ?」
「イヤですか?」
「イヤではないけどさ」
「じゃあ別にいいじゃないですか。さあほら、飛竜くんはどんなラノベを買うんです?」
ずいっ、とクールな上目遣いで飛竜の顔を覗き込んでくる利央。
飛竜としては、色んな意味でたまらない。
「……恥ずかしいんだけど」
「ラノベは私も読みますから、別に恥ずかしがる必要なんてありません」
「……娯楽が禁じられてるのに読めるのか?」
「基本的に電子で買いますから、マンガもそうですけど、抜き打ちの私室チェックを回避しやすいんです」
「抜き打ちの私室チェック……」
そりゃストレスが溜まって発散のひとつやふたつ、したくなるというモノだ。
「それより、飛竜くんはどういう系統をよく読まれるんですか?」
「……まぁ、ラブコメかな」
「ふーんなるほど……私とのセフレ関係という最上のリアルラブコメを味わっておきながら2次元の方が良いと言いたいんですか? へえー、ほーん……」
「なんで目が怖くなってるの……?」
「ふん……まあいいです。そういうモノを大目に見てこそカノジョ……こほん、セフレですからね」
「……今カノジョを自称した……?」
「してません聞き間違いです忘れろください」
「……動揺して日本語おかしくなってない?」
「なってません忘れろください」
絶対おかしくなっているが、機嫌を損ねてもアレなので一旦忘れることにした。
「ていうかさ……マジでなんで僕のもとに居るの?」
目当てのラノベを購入してからハンバーガーショップに入店し、小腹を満たし始めている。
利央はこの場にもバッチリ付き添ってポテトをモソモソ咀嚼中だ。
「だから何度も言ってますけど、仲良くなりたいだけです」
「割り切りなのに?」
「割り切って仲良くなりたいだけです」
「どういうことだよ」
遺恨がある間柄ならその言い方も分かるが。
「細かいことは気にしなくていいんです。飛竜くんはどうせ私に付きまとわれて嬉しいんですから気持ち悪くニタニタしててください」
「ニタニタ」
「…………」
「無反応やめろよ」
「ところで」
「流すな」
「とにかく、気にせずそばに置いてください」
利央はどこか縋るようにそう言ってきた。
本来なら落ち着ける場所でなければならない自宅が色々と制限ありで居づらいがゆえに、ともすれば飛竜のそばが癒やしになっているのかもしれない。
(もしそうなら……僕は受け入れてあげたい)
飛竜も居場所が多い人間ではない。
利央の気持ちは全部とは言わないが、なんとなく分かっているつもりだ。
「まぁ……僕のそばなんかでいいなら幾らでもどうぞ」
「はい、言われるまでもなく居着いてしまおうかと。しかしあくまで割り切りなので、そこはお忘れなく」
飛竜の口にポテトを1本押し込みながら、利央はイタズラに微笑んでみせる。
(割り切り相手に見せる顔じゃないよな、コレ絶対……)
勘違いしていいのか、してはいけないのか、そこが曖昧だ。
しかしこの小悪魔に振り回されるのが、飛竜は嫌いじゃないのである。
そして小腹を満たしたあとは、する日ではなかったのにすることになった。
近くのネカフェのカップルシートで、音を立てないようにハラハラしながら、生まれたままの姿で絡み合う。もちろん紳士の嗜みだけはきちんと着けているが。
「んっ……いいですか? 私以外とシちゃダメですからね……?」
割り切りのはずなのに、そんな束縛までされる始末。
(割り切りってなんだっけ……)
飛竜の中で、その言葉の意味が変わる日は近いかもしれない。
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