第2話 放課後

「なあ、僕らって割り切りのセフレなんだよな?」

「それがどうかしましたか?」

「いや……なんで一緒に帰ってんの?」


 この日の下校中、飛竜がいつも通り徒歩圏内の自宅を目指して帰路を歩いていると、いつの間にか隣にスッとセフレのクラスメイト・若菜利央が現れた。


 長い黒髪の清楚系美少女。


 お堅い地主の家に生まれた影響で、娯楽にあまり触れられない毎日を送る利央は、そのストレス発散手段として飛竜にセフレを申し込んできた。


 一応、割り切り関係のはずだが、最近は利央の方からなぜかよく絡んでくる。

 今もそうだ。

 これまでは下校中に絡んでくることはなかったというのに。


「だから言ったじゃないですか。身体を重ねる中で愛着が生まれ始めたんです。LIKEの意ですが、もっと仲良くしたいと思っています」

「嬉しいけど、勘違いしそうになるから程々に頼むよ」

「別にしてもいいですけどね、勘違い」

「え」

「なんて、冗談ですけど」

「だ、だよな……」


 もてあそばれている。

 飛竜と利央の関係性は、どちらかと言えば利央がイニシアチブを握っている。

 しかし奥手な飛竜としては、そうやって握られている方が落ち着くと言えた。


「そういえば、そろそろゴムがなくなりそうでしたね」


 2人が性を発散する場所は、主に飛竜の自宅だ。


 父も母も長距離トラックの運ちゃんなので滅多に帰ってこず、秘密の関係に耽るには色々とちょうどいいのである。


「ゴム、買いに行ってきます。飛竜くんは先に帰っててください」


 2人でゴムを買う現場を見られるのはさすがにマズいので、関係を持ちかけてきた利央が単独でいつもゴムを買いに行く決まりとなっている。


「あれ……今日ってヤる日じゃないよな?」


 性の発散は大体週に2回である。


 平日のどこかに1回と、土日のどちらかに1回。


 今週はすでにおとといの火曜にヤっている。


 なので次にヤるのは週末のはずだが。


「飛竜くんといっぱい触れ合いたいんです」

「――っ」

「ですからちょっと、回数を増やしていこうかと」

「そ、そっか……」

「急な変更ですけど、大丈夫ですか?」

「あ、うん……頑張る」


 綺麗でスタイルの良い利央に求められるのは男冥利に尽きるというもの。


 頑張らねば男が廃ってしまう。


 ゆえに異論はなく――その後、飛竜は先に帰って待機することになった。


 まもなく利央がゴムを買ってきてからは、ベッドの上で軽く戯れるところからストレス発散の幕が上がり始める。


「飛竜くん……ちゅ、んちゅ……」


 利央は普通にキスをしてくれる。

 割り切りならキスはしないというケースも往々にしてあるのに、だ。


「割り切りなので……変な勘違いはしないでくださいね?」


 唇を離しながらそんなことを言ってくる。


 あまりにも説得力がないものの、飛竜はもちろんこれが嫌いじゃない。


 むしろ好きだからこそ、続けて降り注ぎ始めた新たなキスも受け入れる。


 やがて今日もまたひとつ、ゴムのストックが減った。


「じゃあまた明日、です」


 シャワーを浴びて制服を着直した利央が、最後にちゅっと飛竜の頬にキスをして玄関から出て行った。


「……割り切りってなんだっけ」


 頬を撫でる。


 最近、その言葉の意味が分からなくなり始めている。

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