第21話  ボディーガードとオムライス

 僕は神崎蓮。僕の仕事はボディーガード、今、大好きな歌手、レ〇ナさんのボディーガードをしている。過激派のファン達からレ〇ナさんを守るためだ。いや、ファンではないのかもしれない。レ〇ナさんは何度か複数の男に襲撃されていた。いずれも襲撃は未遂に終わり犯人は逃走、犯人をまだ1人も捕まえることが出来ていなかった。そして、襲撃ではなく誘拐未遂だったのでは? とも言われていた。


 僕はボディーガードの仕事をやっていて良かったと思っていた。大好きな女性を守るボディーガードは最高の仕事だ。やりがいがある。好きな女性を守るなんて、こんなにやりがいのある仕事は無い! そして、勤務時間が終わると僕は内緒でサインをもらい、一緒に写メを撮らせてもらう。部屋の中に、僕の宝物が増える。勿論、CD、DVD、フォトブックは揃っている。



 或る日、レ〇ナさんを襲撃する一味の一人をようやく捕まえた。警棒を振り回してきたが、護身術の心得のある僕が取り押さえたのだ。その男の供述によって、事件の真相が明らかになった。


 或る組織があるのだが、その組織の首領がレ〇ナさんに恋をして、自分の妻にしようとしているらしいのだ。やっぱり、一味の目的はレ〇ナさんの誘拐だった。大スターを誘拐して強引に妻にするなど、決して許されないことだ。僕は、闘志を燃やした。僕は必ず彼女を守ってみせる!



 或る日、レ〇ナさんから言われた。


「事件が収まったら、神崎さんに何かお礼がしたいです」

「気を遣わなくていいですよ、仕事ですから」

「じゃあ、手料理でも作ります。何がいいですか?」

「手料理ですか? それは魅力的な提案ですね。そうですね……オムライスがいいですね」

「わかりました、楽しみにしてください!」

「はい!」



 それから数日後、移動中、白昼堂々怪しい黒ずくめの男達に取り囲まれた。僕ともう1人のボディーガードは、レ〇ナさんを庇うように黒ずくめの男達の前に立ち塞がった。だが、黒ずくめ(覆面付)は十名以上。ピンチだ!


 ピンチなのだが、僕はうろたえることは無かった。何を隠そう、僕は忍者の子孫なのだ。多少の忍術なら身に着けている。これだけ大勢の敵を相手にするなら、この技だろう! 僕は両手を広げ、スケートの選手のようにその場で回転を始めた。


「風遁の術!」


 40歳の僕だからこそ出来る術だ。僕の加齢臭と煙草臭が毒ガスのように周囲を汚染する。黒ずくめの男達は次々と倒れていった。通りすがりの見物人も倒れた。


 振り返ると、レ〇ナさんも気絶していた。


「レ〇ナさん、大丈夫ですか? しっかりしてください!」

「神崎さん……」

「何ですか?」

「オムライスの約束は無かったことにしてください」



 レ〇ナさんは、お怒りのようだった。







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