第20話  2人でオムライス

「あなた、誰ですか?」


 自分しかいないはずの自分の部屋で、15歳のレ〇ナが言った。スーツ姿の見知らぬ男が突然部屋に現れたからだ。


「僕は崔、10年後の未来からやって来たんや。レ〇ナさんのピンチを救うためやけど、僕、レ〇ナさんの大ファンやねん。だから、僕が選ばれてやって来たんや」

「普通の15歳の大ファンって、どういうことですか? ロリコンですか? 変態ですか? 警察を呼びます」

「ちゃうねん、ちゃうねん、害は無いから安心してや。今、不登校でピンチやろ? 今がレ〇ナさんの人生の分岐点やねん。だから助けに来たんや」

「未来から来た証拠はありますか?」

「これや-!」


 崔がカバンからCDやDVDを取りだした。


「これ! 私の?」

「そうや! レ〇ナさんは歌手になって、多くの人間に癒やしを与えないとアカンねん」

「嬉しい……お歌を歌って生きていけるんですね、私」

「ということで、今はツライみたいやから僕が話を聞いて問題を解決するわ」

「解決できるんですか?」

「なんでも解決してみせる!」

「じゃあ、私の不登校、人間関係について、私はどうしたらいいですか?」

「安心して縁を切ったらええねん。僕は小学校とか中学校の知人とはもう繋がりが無いで。でも、日常生活に支障は無いねん。今、自分を取り巻く人間と、将来も友人を続けてる可能性は低い。気にしなくていい! はい、解決!」

「それで解決したんですか?」

「解決してへんのか? 今自分を取り巻く人間全てと縁を切ったらええねん」

「まあ、そう言われれば……」

「はい、次!」

「じゃあ、お母さんが心配してくれたのに、上手く説明出来なくてお母さんを泣かせちゃったことは?」

「今回悲しませた分、いつか笑顔にしてあげたらええねん。以上!」

「それで解決ですか?」

「解決やけど、1つ問題があるな」

「問題って何ですか?」

「泣き足りてないねん。途中で涙を堪えたらアカンねん。涙は涸れるまで流さないとアカンねん」

「私、泣き足りてないんでしょうか?」

「今から涙が無くなるまで泣いてみたら?」

「うう……気を抜くと涙が出るんです」

「まだ涙が残ってるからや……」



「涙が出なくなりました」

「泣くときは中途半端に泣いたらアカン! 思いっきり泣くんや。後、何か食べた方がええで」

「じゃあ、1階に降ります」


「あ、お弁当が置いてあるやんか、良かったやん」

「あ、オムライスです……」

「食べなアカンで」

「でも、あんまり食欲が……」

「食べなアカン、食べな元気が出ない。作ってくれたお母さんに申し訳無い、食べないとオムライスもかわいそうや」

「わかりました。あ、でも、崔さんは?」

「僕は朝と昼はあんまり食べへんから気にしなくてええよ」

「そういうわけにはいきません」

「え! 何するの?」

「私が崔さんにオムライスを作ります」

「おお! レ〇ナさんの手料理! 来て良かった! 最高や!」


「はい、どうぞ」

「おお! いただきます」

「美味しいですか?」

「うん、美味しい!」

「あ、私、味見をしていませんでした。一口、食べますね……うわ! 何これ?」

「ん、どうかした?」

「私の作ったオムライス、失敗作じゃないですか」

「いや、誰かが自分のために作ってくれた料理は美味しいで」

「作り直します」

「もう食べ終わったで。レ〇ナさんも食べたら?」

「はあ……」


「食べ終わりました」

「2人でオムライス食べたこと、僕は忘れへんよ。ほな、そろそろ時間切れやから」

「元の世界に帰るんですか?」

「うん、レ〇ナさんは夢に生きてや」

「また、会えますか?」

「……うん、きっと、また会えるよ」

「嘘です! 崔さん、今、嘘をついている顔をしました」

「うーん、元の世界に戻ったら、僕は入院中やねん」

「何の病気ですか?」

「ん? 癌。せやから、もう会われへんけど。レ〇ナさんはみんなのために歌わないとアカンで」

「崔さん、抱きついてもいいですか?」

「ん? ええよ、おいで」


 崔はレ〇ナに抱き締められた。崔もソッと抱き締める。やがて、崔は現れた時と同様、スッと消えた。



 レ〇ナは、母の夕食に、もう1つオムライスを作った。今度は味見するのを忘れなかった。







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