第14話  ボディーガードのオムライス

 その男は、突然15歳のレ〇ナの前に現れた。まさに、突然現れたのだ。そこは、レ〇ナの部屋。今、家にはレ〇ナしかいない。レ〇ナは勿論驚き、怯えた。


「ああ、怖がらなくてええで。僕は崔梨遙。君を守りに来たんや!」

「変質者の方ですか? 頭が残念な方ですか? すみません、帰ってください」

「まあまあ、怖がらんといてや。未来から来た証拠を見せるわ。これでどうや!」

「これ! 私のCDじゃないですか」

「これで未来から来たって信用してもらえるやろ? レ〇ナさんは人気歌手になって、沢山の人の心を癒やさないとアカンねん。そして、僕は君を守るために来たんや」

「守る? 何からですか?」

「もうすぐ君をヤバイ奴が襲いに来るんや。だから、僕は君を守りに来たんやで」

「ヤバイ奴?」

「うん、レ〇ナさんの大ファンやねんけど、レ〇ナさんのことが好き過ぎて自分のものにしようとしてるらしい。周りが見えなくなっていて、売れっ子になったレ〇ナさんには近付きにくいから、デビュー前のレ〇ナさんを襲おうとしているらしいねん。ほんで、自分のものに出来なければレ〇ナさんを殺す気らしいわ」

「デビュー前と言っても、私、まだ15歳ですよ」

「ああ、その男……Xと呼ぼうか、Xはロリコンらしいんや」

「私、殺されるんですか?」

「そうならないように僕が来たんや」

「あなた、強いんですか?」

「柔道と空手を少々」

「あ、強いんですね?」

「いや、実はあんまり強くはないねん。でも、僕には特別な力があるんや」

「そうなんですか?」

「おっと、お喋りはここまでや。Xが来たみたいやからな」

「え! どこに?」

「1階やなぁ」

「上がって来ますか?」

「うん、上がってきてる。気配でわかるわ」

「勝てますか?」

「Xも未来から来てるからなぁ、どんな武器を持ってるかによるわ」

「ここ、2階ですよ。逃げ道が無いじゃないですか」

「逃げる気は無い。ここで勝負する。レ〇ナさんから離れるわけにもいかんからなぁ」


 その時、ドアが開いた。黒スーツ、黒ずくめの長身の男が乱入してきた。崔は先手必勝、上段蹴りをXの側面に浴びせた。だが、Xは全く動じない。Xの前蹴りで崔は吹っ飛んだ。


「崔さん!」


 立ち上がった崔がXの腕と襟を掴み背負い落とし。Xは転倒した。崔は、転倒したXにまたがった。マウントポジション、崔はXを殴打する。だが、Xは鼻血を出しながらニヤニヤと笑っている。


「崔さん、その人、なんかおかしいです!」

「ああ、痛みを感じないようになってるみたいや、なるほど、これは或る意味スゴイ武器や」

「崔さん、どうするんですか? 崔さんの攻撃が通用しませんよ」

「手錠で拘束する」


 崔は、Xに手錠をかけた。


「手間をかけさせやがって、お前は未来に連れて帰るで。タイムマシンを使った犯罪は重罪や」

「俺のものにならないなら、レ〇ナの存在を消してやる!」


 Xが手錠をかけられたまま懐の拳銃を取りだした。崔はレ〇ナに飛びついた。銃声は1発ではなかった。弾倉が空になるまで撃ち続けられた。崔は、その銃弾を全て背中で受けた。Xの銃の弾が無くなり、ようやく崔は振り向いた。崔も懐から銃を取りだして2発撃った。だが、2発とも外れた。


「当たらないじゃないですか!」

「そりゃあ、そうや。僕は銃なんて初めて撃つんやから」


 崔は手錠をかけられて立ち尽くしているXにつかみかかった。Xのこめかみに直接銃口を当てて、撃つ。Xはその場に崩れ落ちた。


「殺したんですか?」

「いや、気を失ってるだけや。僕の銃に殺傷能力は無いねん」


 そう言いながら、崔もその場に崩れ落ちた。白いジャケットの背中が血で真っ赤だった。


「崔さん、シッカリしてください」

「わかった? 僕の持ってる力、それはレ〇ナさんを命懸けで守れることやったんや」

「崔さん、救急車を呼びます」

「大丈夫、僕もXも、もう少ししたら消えて無くなるから」

「何か、恩返し出来ませんか?」

「ほな、今度会った時に手作りのオムライスを食べさせてや。僕、オムライスが好きやねん」

「わかりました。作ります! 作りますから!」

「ほな、また……」


 崔とXは、現れた時と同じように突然消えた。乱闘の痕跡も、血の染みも無くなった。レ〇ナは呆然として、それから力強く立ち上がった。


 それから、レ〇ナはオムライスを食べる度に崔を思い出した。




 ……もう……会えないのかな?……崔さん……



 でも……もしかしたら…………。 







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