第12話  妖精さんとオムライス

 それは、窓の外から入って来た。羽を羽ばたかせて飛んでいる。思わずレ〇ナは手を伸ばした。それは、レ〇ナの手の平に着陸した。手の平サイズ。それは、白のジャケットにデニムパンツ、インナーは白いTシャツ、眼鏡をかけていた。よく見ると40歳くらいの風貌。オッサンだ。羽の生えた小さいオッサンだ。レ〇ナはどう扱うか? 困った。


 レ〇ナは15歳。不登校で1人で部屋に閉じこもっていた。そこへ小さなオッサンが窓から入って来たのだ。レ〇ナでなくてもオッサンの扱いに困っただろう。


「あの……あなたは誰ですか?」

「僕は崔(さい)、妖精さんや」

「妖精? その姿で?」

「ほら、羽があるやろ?」

「ただの小さなオジサンじゃないですか!」

「いやいや、この手の平サイズ、どこからどう見ても妖精さんやろ?」

「なんで関西弁なんですか?」

「僕は関西の妖精なんや。それより、今日はレ〇ナさんにプレゼントがあるねん」

「プレゼント?」

「レ〇ナさんの願いを叶えに来たんや! ほら、願いを言ってごらん」

「じゃあ、親と仲良くしたいです」

「OK、任せとけ! でるえなかいがね-!」


 レ〇ナはキョトンとした。


「え! 今ので終わりですか?」

「うん、今日、親が帰って来たら、親と話し合ってみてや。ほな、僕は今日はこれで帰るから。明日、また来るわ」



 その夜、レ〇ナは母親と向き合って話そうとした。だが、上手く言葉に出来ない。言葉に出来ないのに、感情は溢れてくる。レ〇ナは母親に抱きついた。母親の胸で泣く。母親は、優しくレ〇ナを抱き締めた。


「上手く説明出来なくてごめんなさい」

「いいのよ、あなたが傷ついてツライということは伝わって来るから」



「昨夜はどうやった?」


 崔は、どこで売ってるのかわからない小さいタバコを吸っていた。


「この家の中は禁煙です」

「ああ、ごめん、ごめん。ほんで、どうやった?」

「なんか、母親の胸で泣いたら少し気持ちが楽になりました」

「良かったやんか。ほな、もう1つ願いを叶えるわ」

「じゃあ、学校に行く勇気をください」

「OK! でるえなかいがねー! はい、これで勇気を手に入れたで」

「何も変わっていないような気がしますが」

「まあ、後でわかるわ。レ〇ナさんは将来人気歌手になるから、迷わず夢に生きてや。僕、レ〇ナさんのCDやDVD、全部持ってるで。実は、僕はレ〇ナさんの大ファンやねん。ほな、僕は消えるから」

「消えるんですか?」

「うん、僕はもう消える時間なんや」

「ご飯、食べて行ってください」

「え! 手料理? それは嬉しいな」

「1階に降ります」」


「オムライス、作りますね」

「おお、僕、オムライス大好きやねん」

「まだ消えないでくださいよ」

「レ〇ナさんの手料理、嬉しいなぁ」

「はい、お待たせしました」



 レ〇ナが振り返ると、もう崔の姿は無かった。


「食べてほしかったなぁ……」


 その日、レ〇ナは崔がいなくなったことを悲しんだ。



 翌朝、レ〇ナは思った。


「学校、行こうかなぁ……」







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