第11話  あの子とオムライス

 母親が仕事に出かけ、学校に間に合わない時間になり、やっとホッとして1階に降りたレ〇ナ、15歳。テーブルの上に弁当箱が置いてあった。レ〇ナは蓋を開けてみた。中身はオムライスだった。美味しそうだったが、レ〇ナは最近食欲が無かった。そのまま弁当箱に蓋をする。


 その時!


「食べへんのかーい!」


 と、声がした。キョロキョロと部屋の中を見回すレ〇ナ。勿論、誰もいない。


「ここや、ここやー!」

「え! もしかして、あなた?」

「そうや、僕や、僕や」

「もしかして、オムライスさん?」

「そうや、僕、オムライスや」

「最近のオムライスさんは喋るんですか?」

「他のオムライスのことは知らん。僕は喋る」

「なんで関西弁なんですか?」

「知らんわ! 関西弁は嫌いか?」

「嫌いじゃないですけど」

「あ、話を戻すわ。なんで蓋をしめるねん?」

「ちょっと食欲が無いから」

「なんで食欲が無いねん? なんや、何か悩んでるんか? 話してみろや、オジサンが聞いたるわ」

「でも、オムライスに相談しても……」

「あ、オムライスを馬鹿にしたらアカンで。さあ、悩みを打ち明けてや」

「今、学校に行けなくなってるんです」

「学校に行けない理由は自覚してるんか?」

「はい、自分ではわかっています。親には上手く話せないんですけど」

「ほんで、その行けない理由は自分1人で解決できるんか?」

「出来ないです」

「ほな、気にしたらアカン。自分で解決出来へんのやったら、悩んでもしゃあないやんか」

「まあ、確かに。でも……不登校はマズいかなぁと……」

「それや! それがアカンねん。学校に行けないことに罪悪感を感じてるやろ? それがアカン。不登校のまま堂々と生きたらええんや」

「それでいいんですか?」

「大丈夫や、通信制の学校もあるし、高等学校卒業程度認定試験という手もある。今は悩まないようにすることが重要やで。ほな、不登校に関してはこれで解決や、これでええやろ?」

「うう……微妙ですけど、確かに自分の力では解決出来ないことを悩んでも仕方ないですね」

「そうそう、ほな、次のお悩み!」

「お母さんを泣かせてしまったんです。私の不登校を気にして、私と話し合おうとしてくれたのに、私、上手く喋れないから伝わらなくて……泣かせたいわけじゃなかったのに」

「上手く喋れても伝わらないことは多々あるで。上手く喋れなくても伝わることもあるし。レ〇ナさんは上手く説明しようと思うからアカンねん。1回、泣きながら抱きついてみたらどうや? そうしたら、レ〇ナさんが悩んでツラくて苦しんでることは伝わると思うで。言葉に頼り過ぎたらアカンねん」

「わかりました……上手く喋れない時は抱きついてみます」

「そうそう、それでも伝わらへんかったら僕が抱き締めたるわ」

「私がケチャップまみれになるじゃないですか」

「汚れてもいい服装で抱きついたらええねん」

「はあ……わかりました」

「ほんでや! なんで僕を食べへんのや?」

「最近、食欲が無いんです」

「そういう時こそ、しっかり食べなアカンで。さあ、僕を食べてや」

「すみません、すごく食べにくいです」

「なんでやー?」

「だって、喋るんですよ! 喋るオムライスを食べるって苦痛ですよ」

「食べられてる間は黙ってるから、食べてや」

「はあ……じゃあ、一口……あ、美味しい」

「美味しいやろ!」

「喋らないって言ってたじゃないですか」

「あ、ごめん、ごめん。でも、オムライスに生まれてきたら、美味しく食べてもらうのが1番の幸せやねん」

「じゃあ、もう一口」

「うん、どんどん食べてや。もう、僕は黙るから」


「最後の一口ですよ。言い残したことはありませんか?」

「レ〇ナさん、かわいいから好きや。絶対にプロの歌手になれるから夢を諦めたらアカンで。ほな、最後の一口を食べてや。僕はまたオムライスに生まれ変わるから、また出会えたらもっとお話しよなぁ」

「はい。じゃあ、最後の一口、食べます!」

「どうぞ!」

「ああ、美味しかった」


 それから、レ〇ナはふと思った。


「あ……私、オムライスに説教されたんだ……オムライスに説教される人って、私だけかな?」


 レ〇ナは久しぶりに笑った。


 母親が帰って来ると、レ〇ナは母親の胸に飛び込んだ。涙が溢れ出した。母親はレ〇ナをギュッと抱き締めた。


 翌朝、レ〇ナは思った。



「学校、行こうかなぁ……」







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