第10話  オムライスとあの子

 不登校のレ〇ナ、15歳。親が仕事に出かけ、登校時間が過ぎ去ってからが、ようやくレ〇ナのホッとする時間。1階に降りると、弁当箱が置いてあった。蓋を開けたら、中には美味しそうなオムライス。だが、食欲の無いレ〇ナは食べずにまた蓋をしようとした。


 すると、その時!


「レ〇ナさ~ん! 蓋を閉めるのはやめてや~!」


 声がした。レ〇ナはキョロキョロと室内を見回す。勿論、誰もいない。


「ここやー! ここ、ここー!」

「え?」

「弁当箱を見てくれ-! 僕、オムライスやー!」

「え? オムライスさんが喋っているんですか?」

「そうやで、僕は喋るオムライスなんやー!」

「あ、おはようございます」

「あ、おはようございます。って違うやんか、食べてや!」

「最近、食欲が無いんです」

「アカン! しっかり食べないと元気が出えへんで」

「え! 私、あなたを食べるんですか?」

「そうや、モリモリ食べてくれ」

「喋るオムライスなんて、気持ち悪くて食べられません」

「レ〇ナさん、かわいいから、僕、レ〇ナさんのこと大好きやねん」

「それはどうも」

「レ〇ナさんに食べてほしいなぁ」

「うーん、それはちょっと……」

「僕、レ〇ナさんの大ファンやから、レ〇ナさんに食べてほしいねん」

「ファン? 普通の15歳の女の子のファン? オムライスさん、もしかしてロリコンですか?」

「ちゃうねん、ちゃうねん、僕には将来がわかるねん。レ〇ナさんは5年以内にデビューして、10年後には人気歌手になるねん。オムライスの予知能力、なめたらアカンで」

「本当ですか?」

「うん、ほんまやで。だから、今苦しくても夢を追いかけたらええねん」

「私、お歌を歌って生きていけるんですか?」

「うん、間違いない。僕は未来のレ〇ナさんを知ってるねん。だから僕はレ〇ナさんのファンやで」

「でも、どうしてオムライスさんは未来がわかるんですか?」

「オムライスは時空をこえて存在するんや。まあ、その件についてはあんまりツッコミいれないように!」

「わかりました。でも、本当に食欲が無いんです」

「不登校やから? それで食欲無いんか?」

「ええ、よく知ってますね」

「学校に嫌な奴がいるんか?」

「……まあ、はい、います……」

「ほな、僕がそいつをぶち殺したるわ」

「殺さなくていいです」

「オムライスの戦闘能力をなめたらアカンで」

「殺したらマズいでしょう」

「レ〇ナさんが殺すなって言うなら、今回はやめといたろか」

「悩みは不登校だけじゃないんです。家族とも上手くいってなくて」

「わかった、ほな、僕が家族をぶち殺すわ」

「ダメですよ! 私の大切な家族なんですから」

「ほな、やめとくわ。でも、僕はレ〇ナさんの味方やからね」

「本当に、私の味方なんですね」

「うん、僕はレ〇ナさんが大好きやから」

「オムライスさんを私が食べたら、もうオムライスさんと話せないじゃないですか」

「大丈夫、僕はまたオムライスとして生まれ変わるから、また会えるで」

「またオムライスに生まれ変わるんですか?」

「うん。あれ、アカンかな?」

「人間に生まれ変わってほしいです」

「まあ、実は……僕も元は人間やったんやけどなぁ。10年後の世界で死んだんや。ほんでオムライスになって時空をこえて今ここにいるんや。今度もオムライスに生まれ変わろうと思うんやけど、人間の方がええかな?」

「ええ、人間に生まれ変わったオムライスさんに会いたいです」

「人間に生まれ変わったら、スターになるレ〇ナさんとは会われへんで。オムライスやったらまた会えるやんか」

「そうなんですか?」

「まあ、とりあえず僕を食べてや。元気が出るで」

「じゃあ、一口。……あ、美味しい」

「気にせず食べてや。今、好きな女の子に食べられて幸せやねん。料理は美味しく食べてもらうのが幸福なんや」

「あ……最後の一口です」

「レ〇ナさん、大好きやでー! また会おうなぁ-!」


 レ〇ナは最後の一口を食べた。



 やがて、母親が帰って来た。レ〇ナは久しぶりに笑顔になっていた。そして、オムライスを食べる度に、あの関西弁で喋るオムライスを思い出す。







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