第9話  オムライスから見たあの子

 レ〇ナ、15歳。不登校で、母親に理由を聞かれても上手く説明出来ず、母親を泣かせてしまった。朝、弁当箱の中のオムライスを見たが、食欲が無くて食べられなかった。夜になって食べようとしたら三角コーナーのゴミ箱にオムライスは捨てられていた。レ〇ナは、せっかく作ってくれたのに食べなかったことを申し訳無く思い、母親にゴミ箱に捨てさせてしまった自分を責め、ますます暗い気分になった。また涙が出そうになる。


 その時! 声が聞こえた。


「レ〇ナさーん! 泣いてるんか?」

「え?」


 レ〇ナは辺りを見回す。誰もいない。


「ここやー! 三角コーナーやー!」

「え! ゴミ?」

「僕、オムライスやー!」

「……オムライス……さん?」

「そうやねん、レ〇ナさんが食べてくれへんかったから捨てられてしもた」

「……ごめんなさい」

「いやいや、謝らんでもええねんけど。どないしたん? えらい元気が無いやんか」

「せっかく作ってくれたのに、食べなくてお母さんに申し訳無いことをしたなぁと思って……それと、オムライスをそのまま捨てたお母さんの気持ちを考えると、また切なくなってきて……」

「そうなんやぁ。それはツライなぁ。なんか、僕まで泣けてくるわ」

「あ、泣かないでください」

「ああ、勘違いせんといてや、僕は食べてもらえなかったことを怒ってるんやないで。食欲の無いレ〇ナさんを心配してるんや。レ〇ナさん、大丈夫?」

「大丈夫じゃないです、学校にも行けなくて」

「なんや? 嫌いな奴でもいるんか?」

「います」

「ほな、僕がしばいたるわ」


 オムライスがピョコンと跳ねて三角コーナーから出て来た。


「しばかなくていいです」

「え! ええの? レ〇ナさんって優しいなぁ。レ〇ナさん、優しいから好きやで」

「どうやってしばくつもりだったんですか?」

「そりゃあ、パンパンパンって往復ビンタ数十回や」

「落ち着いてください」

「なんや、ほなおとなしくしとくわ」


 オムライスは、また三角コーナーのゴミ箱に戻った。


「でも、レ〇ナさん、手を切ったりするのはアカンで。もうやめてや。やめるって約束してや」

「なんで、わかるんですか?」

「オムライスの観察力をなめたらアカンで」

「でも……」

「そんなことして気をそらしても、一時しのぎや。問題は解決せえへんで」

「そうですね、解決しません」

「もっと肩の荷を下ろしたらええねん。不登校でもええやんか。レ〇ナさんはデリケートで、なんでも自分の責任やと思うからアカンねん」

「私、気楽になっていいんですか?」

「そうや。ほんで、歌手になるという夢に生きたらええねん。レ〇ナさんは絶対に歌手になれるから」

「そうでしょうか」

「なれる! ほんでな、死にたいわけやないんやろ? 生きるのがツライだけやろ? “死にたい”と“生きていたくない”というのは大違いやからな。死んだらアカン。もう少しの辛抱や。頑張れ!」

「頑張る……」

「レ〇ナさんは既に頑張ってるからなぁ、既に頑張ってる人に更に“頑張れ”っていうのは酷やと思うけど、あえて言わせてもらうわ、今が正念場や、頑張れ!」

「わかりました……」

「あ、そろそろ普通のオムライスに戻るわぁ。もう喋られへん。お母さんと仲直りせなアカンで。最後に一言、レ〇ナさん、大好きやでー!」

「オムライスさん? オムライスさん!」


 オムライスはもう喋ることはなかった。


 翌朝、レ〇ナは母親に言った。


「ごめんなさい」



 母親は、レ〇ナを黙って抱き締めた。







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