第6話  レ〇ナさんとオムライス

「やったー! 当たった!」


 人型AIアンドロイド、レ〇ナさん型、R0028試作品が抽選で僕の所にやって来る! 最終実験として一般家庭で活躍できるかどうか? 調査されるのだ。調査期間は2週間。2週間もの間、僕はレ〇ナと一緒に過ごすことが出来るのだ。


 レ〇ナ大ファンの僕としては、これは神様から与えられたご褒美! 2週間、有給休暇を使ってレ〇ナと一緒に暮らすぞ-! 2週間、ずっと僕はレ〇ナから離れないからな! 40歳の今、ついに僕に幸運が舞い込んで来たのだ。CDでもDVDでもない、フォトブックでもない、本物のレ〇ナがやって来るのだー!


 レ〇ナが届いた-!


 大きな箱を明けると、そこにはショーケースごしのレ〇ナとクッション材。僕は、早速蓋を取り、眠っているかのようなレオナの耳の裏のスイッチをONにした。レ〇ナの目が開いた。そして、立ち上がるレ〇ナ。レ〇ナはメイド服だった。これで萌えないわけがない。小柄だが、顔が小さいのでスタイルがよく見える。


 美しい! 美しいなんてものじゃないぞー! この世の者とは思えない美しさだ。僕は緊張と歓喜の思いに震えた。


「翔平様ですか?」

「うん、翔平」

「私のことは、28号とお呼びください」

「いやいや、レ〇ナさんと呼ばせてくれや」

「そうお呼びになりたいのでしたら、呼び方はお任せします」

「2週間、よろしくね」

「今日は2人が出会った記念ですね。食事はどうしますか?」

「あ、外食がいい? スタートしてスグに家事っていうのも面倒臭いやろ?」

「私は、和・洋・中、高級シェフなみの料理を作ることができます。なんでもリクエストしてください。今、食べたい物はありませんか?」

「ほな、オムライス」

「オムライスでいいんですか?」

「うん、母が24歳の時に亡くなったんやけど、よくオムライスを作ってくれた。ケチャップが上に乗っているような庶民的なオムライスがいい」


「はい、どうぞ」

「そうそう、これこれ」

「そんなにオムライスが好きなんですか?」

「っていうか、家族で外食に行ってもオムライスばかり頼んでいたからなぁ。親は“好きな物を食べろ!”って言ってくれるんやけど、親に気を遣っちゃって、高い物は注文出来なかったんやわ。だから、オムライスは僕の少年時代の思い出になってるねん。オムライスを食べていると、幸せだった子供の頃の記憶が蘇って、暖かい気持ちになれるんやわ。なんか、誰かの歌の歌詞に似たような話があった気がするけど」


「食後、どうしますか?」

「こんなことを頼んでもいいのかなぁ」

「どんなことでもどうぞ、そのための2週間の実験ですから」

「じゃあ、歌を歌ってくれる?」

「はい? はあ、そんなことでよろしければ」


 長時間、レ〇ナに歌わせてしまった。間近の特等席で聞く生歌は迫力があった。そこで、気付いた。


「レ〇ナさん、顔が赤いよ」

「熱唱し過ぎて身体に熱がこもってしまいました」

「アカンやん、とりあえず横になって」


 僕はレ〇ナさんをお姫様抱っこで寝室に運んだ。氷枕などを用意して、必死でレオナを冷やす。


「大丈夫ですよ、壊れたりはしませんから」

「そういう問題とちゃうやろ! 好きな女性の体調が悪かったら心配するのが当然やんか」

「私は、アンドロイドですよ」

「いや、とてもかわいくてキレイな女の娘(こ)やで」 


「治りました」

「でも、まだ無理はせん方がええよ」

「ご主人様は、お風呂ですか?」

「うん、風呂に入るけど、そのご主人様っていうのはやめて」

「なんとお呼びすればいいのですか?」

「翔平でええよ」

「では、翔平さん」

「うん、それでええよ。ほな、風呂に入って来るわ」


「失礼します」

「え! なんで入ってくるの? しかも裸やんか」

「お背中を流します」

「じゃあ、せめて水着か何か着てよ」

「わかりました」

「ああ、ビックリした」

「私の身体、魅力無いですか?」

「充分、魅力的やからそこは気にせんでもええで。僕には、レ〇ナさんの水着姿だけでも刺激が強いんや」


「寝ますか?」

「そうやな、まだ後13日もあるもんな。よし、寝よう。あ、ごめん、セミダブル1つしか無いからちょっと狭いかもしれへん。ベッド1つやから、一緒に寝てくれる?」

「はい、添い寝しますね」

「うわ! 添い寝? 嬉しいけど緊張感の方が勝るわって、何してるの?」

「はい、全部脱いでいます」

「寝間着は無いの?」

「ありますけど」

「じゃあ、寝間着でいいよ」

「失礼します」


 パジャマ姿のレ〇ナがベッドに潜り込んできた。


「夜伽しますよ」

「しなくていいー!」

「私、そんなに魅力無いですか?」

「あり過ぎる。ほんまのこと言うたらスグにでも抱きたい。でも、好き過ぎて簡単には抱かれへん。僕みたいな男が、レ〇ナを汚したらアカンような気がするねん。お互いに好きになった時じゃなかったら、抱き合うなんて出来へんよ」

「翔平さんって、変わってるんですね」

「好きだから抱きたいっていう気持ちと、好きやから大切にしたいって気持ちが両方あるねん」

「でも、他のアンドロイドと交信したら、みんなもう抱かれているみたいですよ」

「みんな早いな! でも、他人のことやんか。僕は僕や。言っておくけど、僕はレ〇ナを愛してるからね」


 それからの13日間はあっという間だった。僕達は、主人とメイドという関係では無く、恋人のような同居時間を過ごした。レ〇ナをアンドロイドとしてではなく、1人の愛する女性として扱い続けた。本当に、楽しい日々だった。


 そしてレ〇ナが回収されて行った。10.5畳と4畳半の寂しい1DKに戻った。



 ところが、2ヶ月後、またレ〇ナのアンドロイドがウチに届いた。手紙が添えてあった。手紙は研究所からのものだった。僕は読んでみた。


“相楽翔平様


 相楽様に2週間レンタルしていただいたR0028号には、人としての心が芽生えてしまいました。これは興味深いテスト結果でした。相楽様のおかげで、貴重なデータを手に入れることが出来ました。データの回収は終わり、R0028号が相楽様以外のメイドになることを拒みますので、R0028号は相楽様に進呈します。R0028号を大切にしてあげてください” 



 僕は、レ〇ナの耳の後ろのスイッチをオンにした。


「あ、翔平さん! 私、戻って来れたんですね!」

「そうやで、よく戻ってきてくれたなぁ」

「これから、ずっと一緒にいられるんですか?」

「うん、ずっと一緒やで」

「2人の気持ちが結ばれていることがわかりましたね。私、翔平さんのお嫁さんになってもいいですか?」

「勿論や! レ〇ナ以上の女性なんて、この世におらんからな!」

「今日は記念日……ご飯はオムライスにしましょうか?」

「あ、いいねえ、作ってくれる?」

「あ、それから……」


 レ〇ナはベッドの下から段ボール箱を引っ張り出して来た。それは、僕のAVコレクションのはず。


「これは、もう、要りませんよね?」



 レ〇ナは、今までで1番いい笑顔を見せてくれた。







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