第4話  語るオムライス

 レ〇ナ、15歳、不登校、親と不和、悩み多き美少女。親が仕事に出かけ、登校時間も過ぎて静かになった。そこで、ようやくレ〇ナは1階に降りた。テーブルの上にはお弁当箱。中身は美味しそうなオムライス。だが、レ〇ナは食欲が無かった。お弁当箱の蓋を閉じた。


 夜になり、オムライスが食べたくなったレ〇ナは、こっそり1階に降りた。すると、オムライスは三角コーナーのゴミ箱に捨てられていた。それを見たレ〇ナは、悲しみで胸が苦しくなった。


 その時、声が聞こえた。


「おーい! レ〇ナさーん!」

「誰ですか?」

「ここやここ! 三角コーナーや」

「三角コーナー?」

「僕、オムライスやねん」

「オムライスさん?」

「良かった-! もう会われへんのかと思ったけど、レ〇ナさんに会えた。良かった」

「ごめんなさい、私のせいでゴミになっちゃって」

「それはええねん、まあ、せっかくやからかわいいレ〇ナさんに食べてほしかったけど。口臭のきついオッサンに食べられるのは嫌やけど」

「ごめんなさい」

「いやいや、最近しんどいんやろ? 大丈夫?」

「いえ、大丈夫じゃないです」

「僕は頑張れとは言わへんで」

「え?」

「レ〇ナさん、既に思いっきり頑張ってるから、これ以上頑張れとは言われへん」

「そうなんです、私、これ以上頑張れません」

「まず、レ〇ナさんは自分を楽にせなアカンわ」

「楽に?」

「不登校の件で自分を責めたらアカン」

「でも、学校に行けないんですよ」

「学校は絶対に行かなアカンと思いすぎやねん。学校なんて休んでもええと思ったら、それだけでも楽になるやろ」

「学校を休んでいい?」

「そうや、行けない理由はあるんやろ?」

「あります」

「ほな、しゃあないやんか、理由も無く休んでるわけとちゃうねん、もっと堂々と生きたらええねん」

「それが出来たら、確かに楽ですね」

「でも、悪いことばかりではないで、YESかNOで答えられない問題を抱えるのは、大人になるには必要なことなんや。例えば、これは好きか? という問いなら、YESかNOで答えられるけど、何が好き? とか、どうしたい? とか言われたらYESかNOでは答えられへんやろ? 大人になったら、自分で正解を考えないといけないことが沢山やで」

「そうなんですか?」

「それに、正解が1つじゃないということもあるんや」

「あ! 確かにそういうことってありますね」

「それから、言葉は大切やけど、気持ちを伝えるときに言葉に頼り過ぎたらアカンで」

「というと?」

「1時間喋るよりも、1度ハグした方が伝わる時もあるやんか」

「お母さんと、また仲良く出来るでしょうか?」

「出来る! 悲しい思いをさせたんやったら、いつか笑顔にしてあげたらええんや」

「そうですよね」

「レ〇ナさん、もっと甘え方をおぼえないとアカンで。上手に甘えてみたらええねん」

「わかりました、私、思い切って甘えてみます」

「そうそう、ええこと教えたるわ」

「なんでしょう?」

「レ〇ナさんは、将来歌手になれるからね。あ、言うてしもた。あんまり未来のことは言うたらアカンのやけど」

「私、歌手になれるんですか?」

「うん、5年後にはデビュー、10年後には大歌手や」

「嬉しい……お歌が歌える」

「さて、奇跡の時間切れやわ。僕はもう喋れなくなる。僕はただのゴミになる」

「三角コーナーのオムライスさんを最初に見た時、私がゴミになりたいと思いました……」

「アカン、レ〇ナさんは歌で大勢の人に癒やしを与えないとアカンねん。ゴミになってどないすんねん」

「オムライスさん……」

「ほな、夢に生きてくれ……」

「オムライスさん?」

「……」

「オムライスさん!」


 しばらく立ち尽くしていたレ〇ナが呟いた。


「自分を楽に……か……」



 顔を上げたレ〇ナの顔に、久しぶりに微笑みが戻っていた。







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