chapter.4 「知らない天井」

「うおおおおおおおっ!」


荒野の景色がものすごいスピードで横目に流れていく。勢いよく地面を蹴る音が、軽快に響く。


俺はレインの能力である〈騎士術:霊馬〉により召喚された、紫に光る馬の幽霊に跨っていた。

馬の体は透けていて、その上にしっかりと乗れるのが何となく不気味であったが、乗り心地は悪くない。


草に青みがかかってきたな、と思っていると、馬がいきなり林に突っ込んで行った。

無論、全身にぶつかってきた、木の枝やツタなんかが痛い。


「おい!……いてっ!...レイン、こういうのは事前に言えよ!」


「なんだって?聞こえないぞ!」


だが、そんな苦痛は意外と直ぐに終わった。

木々の隙間から光が漏れだし、目の前が一気に開ける。青葉の空気が肺を満たす。


「見ろ、エナジー。あそこに巨大な骨が見えるだろ。あれの下に小さな村があるのだ。」


指す方向にはたしかに、積乱雲ほどにそびえる骨。この世界はあんな生物もいるのかと、呆気にとられる。


しかし、ついに人の住む土地に着いたのか。


この馬の生物離れした速度ですら、人が住む辺境の土地、ジャトウ村という集落にたどり着く頃には日が暮れていた。


ジャトウ村/1日目/朝


目が覚めると、そこは知らない天井だった。


久しぶりのしっかりとした睡眠を取った俺は、体のあちこちに蓄積された痛みが無くなっていることに気づいた。


この建物はレインが金を払って泊めさせてもらった、普通の民家である。

このジャトウ村には、めったに人が訪れることはないため宿屋などは無い。


寝室を出て、人の声がする方に向かう。つまりは、1階におりていくことになるのだが、1階にはこの家の子供らしい少年が一人で喋っていた。


「ああ、お客さん。随分と朝が早いんだね。」


こちらに目を向けることなく、なにか作業をしながらそう言った。


「そうなのか?俺はしっかりと寝たつもりだったんだがよ。今何時なんだ?」


そこまで口にしてから、ああ、そういえばこっちの世界には時間という概念があるのだろうかという疑問に気づいた。


「なんじっていうのは分からないけど、まだみんなが寝ている時間だね。」


つまりは、5時くらいってことか。


「それにしては、お前は子供なのに起きているじゃねえか。秘密の特訓でもしてんのか?」


不良マンガでも、普段努力をしないような主人公が、ライバルからの果たし状を受けて、朝早くにボクシングジムに通ったりすることがあったな。


「驚いたよ、よく分かったね。」


少年は、こちらへ振り返る。

その見た目には、特徴と言えるものは何も無かった。雑踏に紛れれば、見失ってしまうくらいに。


しかし、その瞳の奥には、信念とも言うべき色があった。

そして、その手には大きな斧を持っていた。さっきから斧を手入れしていたようだ。


「あ、ああ、ずいぶんとご苦労な事だな。その斧は、お前の武器か?」


「そうだよ。これを持って村を1周した後に、素振りをする。そしてあの硬い骨を向かって打ち込み。これが僕の毎朝の訓練なんだ。」


そう言って斧を片手で持ち上げる。

黒々とした金属をでかい塊にしたような斧だった。少なくとも、片手でそのようにして持てる重さではない。


「そこまで鍛えるのには、でけえ夢でもあるのか?」


「いやいや、ただ自分の力不足が嫌なだけなんだ。このままじゃ、ダメなんだよ。」


少年は、斧を握る拳に力を入れる。

周囲の空気が、確かに震えた。




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リベリオン! 〜生まれ変わった奴が何にも縛られずに生きてたらいつの間にか反逆軍のリーダーになっていた話〜 ヤマイシ=キーチ @yamaishikiichi

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