chapter.3 「ツッコミどころが多すぎる」

異世界/2日目/朝


その少女は枯れた荒野に、咲く一輪の花。


黒髪に濃紺の瞳、漆黒の鎧を纏っている騎士。花に例えるなら、クロユリであろう。


黒騎士の乙女。その名はレイン・テンポーラル。テンポーラルという家名はもう存在しない。

龍を恨み、剣を取り、騎士の道を志してから、ひたすらに研鑽を磨いてきた。

深い紺色の瞳の奥には、常に龍への復讐の黒が渦巻いている。


地平線からは光が漏れ出してきていて、荒野をかわいた風が駆け抜けた。

荒野でたおれている少年が朝日に照らされる。


幼くして剣の才能を認められ、龍の首だけに執着を示してきた彼女。

黒騎士の乙女レインは、赤面していた。


「男の人の裸を初めて見てしまった…」


できるだけ直視しないように傷だらけの体に近づき、いたわるように自身の纏っていたローブをかけた。


異世界/2日目/昼


登校中に命を落とし、神によって生まれ変わったさきは、異世界の何もない荒野であった。


一昼夜かけて荒野を歩いていくと、星空から白き龍が舞い降りてきた。

無謀にも龍に挑んだ俺だったが、一瞬にして龍の放った青い閃光に包まれた。その衝撃で、俺は気を失ったようだ。

あれほど親父にカッコつけたのに、俺、ダサくね?


目を覚ましても、そこは相変わらずの何も無い荒野であった。


目の前で、可愛い悲鳴をあげてしりもちをついている少女以外は。


「うるせーな、いきなり大声を出すんじゃねえ」


「…ごめん」


体を起こすと、掛けられていたローブに気づいた。


「これ、お前のだろ。返しとくわ。」


「だ、だめだ!脱ぐな!」


ローブを脱ごうとすると、少女は焦りながら俺を突き飛ばした。


すると、全身に電流のような激痛が走った。


「いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


荒野に響き渡る絶叫だった。

身体中が身に覚えのない傷だらけになっていた。あの青い閃光のよるものだろうか、それにしてはムチで打たれたような打撲も多い。


「ご、ごめん。大丈夫か?」


あきらかに騎士っぽい格好をしたこの少女なら何かを知っているかもしれない。


「大丈夫なわけねぇだろ!」


「そ、そう怒るな。そのローブはそのまま着てもらっていて構わない。おかしいな、昨晩の戦いでは、あれほど頑丈だったのだが。」


そういえば、俺は真っ裸だったんだな。ならこのローブは助かるから貰っておこう。

心の中だけで感謝は伝えておく。

それよりも、今の昨晩の戦いって発言。やはり、間違いなくこの少女は何か知っている。


「やっぱりなんか知ってるんだな!教えろ!」


「あ、ああ。構わないが、あなたが当事者なはずだが…」


そこから彼女が語ったのは、俺の記憶にない龍と渡り合った、もう一人の俺についての話だった。


あの龍は、彼女、レインの騎士団が、結成から一貫して討伐を追い求める存在である。


この死の荒野を統べる白龍。

また、弱肉強食の頂から見下ろす覇者。

そして、生物としての次元を違えた神の使途。

リーフデッド=バウンズリヴァーという長ったらしい名前までつけられている。


昨夜、レインは荒野を探索中に、ふと星の輝きに異変を感じた。星詠みとも呼ばれ、長い年月をかけてバウンズリヴァーを追いかけているものが辿り着く境地らしい。


その通りに、白龍のブレスの青い光を荒野に捉えて、そこへ向かったのだと。


そして、バウンズリヴァーの姿を捉えた時、何者かと戦っていることに気づく、その相手が俺だったらしい。


地面から立ちのぼる青い火柱から飛び出した俺は、まるで流星のごときその勢いのまま、龍に頭突きした。


あの白龍が、よろめいた。

あの覇者に、一撃を与えた。

あの神の使者へ、ついに反逆の狼煙を上げたのだ。


彼女は、騎士団の討伐隊が手も足も出せずに全滅させられる光景を見てきた。しかし、バウンズリヴァーに一矢報いたのは初めてだったという。


そこから、バウンズリヴァーの白い尾が動き、螺旋を描くように振り下ろされた。


俺は、まだ空中にいて、避けることも出来ずに一撃を食らう。


しかし、両断する勢いの攻撃を受けて、俺は地面を飛ぶように龍へ迫り、尾の付け根に蹴りを入れる。


そんな、一進一退の攻防がつづくが、俺の方が消耗が大きいことは明らかであった。むしろ、あれだけ龍の攻撃を正面から受けてまだ生きているのが異常であった。

レインは「私があの戦いに入っても足でまといになることは一目瞭然だった」と俯く。


そんな中で俺は龍の魔眼の呪いで、金縛りにあう。

身動きが取れない俺に、レインが駆け寄る間もなく龍のブレスが襲う。

やはり、龍の討伐など、無謀なのかもしれない。

ここまで龍を疲弊させたのは史上初めてのことで、それでも倒しきることができなかった。


絶望の感情が芽生え始めながら、せめてもう一撃を与えようと、レインは龍へ走った。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!」


地鳴りにも近い雄叫びと共に、レインを俺が追い抜いていった。

呪いを打ち破るなんて聞いたことがないらしい。


そして龍のブレスを紙一重でかわし、畳み掛けられる尾の振り下ろしを全身で受けて、根元を押さえ込んだ。まさかと思った時、龍が宙を舞った。


落下してくる巨体へ、俺が飛び込んで行った。

そして、赤い炎を纏う拳を振り上げる。


「白い龍と赤い流星の衝突であった。

騎士団の願いが届いたのか、あなたの決死の一撃は龍の致命的な弱点である、逆鱗を掠めた。

龍は咆哮で大気をふるわせて、飛びさっていった。」


ここまでレインの話を聞いて俺はふたつの結論に達した。


ひとつは、俺には気を失っている間に、もう1人の人格らしきものがあり、その状態はすごく強いということ。


もうひとつは、そうなると、やっぱ俺、かっこよくね?ってことだ。親父、俺の戦い、ちゃんと見ててくれたか。


「そういえば、あなたの名前は?」


「俺は江成 仁だ。」


「そうか、これからよろしくな、エナジー。」


〈パーティーメンバーに、レイン・テンポーラルが追加されました。詳細を表示しますか?〉


突如、頭の中に流れた声の内容があまりに唐突すぎるのだが。

それに、エナジーじゃないし。

美人とよろしくするのは悪くないけど、いつそんな話になったのか。


…ツッコミどころが多すぎる!



???/同刻


「いや、戦ったのお前じゃないだろ!」


白い空間に豪快な笑い声が響いた。




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