chapter.2「それでも俺は」
異世界/1日目/朝
見渡すかぎりの荒野は、あの見下し豆電球の嫌がらせだろうか。
こういう時、不良が初めにとる行動は何か。
水源の確保?周囲の探索?それはもちろん大事だが、それをするのはあくまで常識人だ。
不良の場合の答えは、屋上で寝る。
すると、気の強い幼なじみが呼びに来てくれるんだが、それをあくまで冷たくあしらう。
「お前は俺の母ちゃんかよっ」て感じで。
うっせぇな、将来のお嫁さんだよ!
なんてふざけてみたが、これはかなりやばい状況だ。
あの豆電球は、父さんの前だけ俺を生まれ変わらせた振りをしてすぐに処分するためにこんなところを選んだのだろう。
とりあえず、持ち物を確認してみる。
うん、今気づいたけど俺真っ裸だったわ。
黒丸で修正入れといてね。
異世界/1日目/夜
この荒野、昼は暑いのに夜は寒い。
それに、一日中歩き通しても果てが見えない。
疲れがどっと押し寄せ、仰向きに倒れる。
すると、手が届きそうな満天の星空。
思わず息を呑みそうになるが、不良はどんな行動をとるか。
「けっ…腹の足しにもならねえ」
と、毒づくのだ。
本当は感動してんだろ!可愛いヤツめ!
その時、突然星が消えた。
そして、俺は見上げたまま目を見開いた。そしてその存在を発見する。星月夜を舞う、巨大な影を。
「まじかよ、あのシルエット、ドラゴンじゃないのか?」
あのクソ豆は、徹底的に俺を消したいらしい。
いいだろう、自由のために戦ってこその不良だ。
相手は遥か天空で、飛行する強大な存在。
対して、俺は普通の人間、装備どころか服無し。
「喧嘩上等ォ!」
主人公が1人で敵グループに殴り込みに行き、集団リンチに会う回。その時のセリフが今にピッタリだろう。
「やっぱ怖いもんは怖ぇな!へっへっへっ」
大事なことは、恐怖がないことでは無い。それを乗り越えるだけの気合いがあるかどうか。
かっけぇな。俺もお前みたいになれるかな。
正直、あの鉄パイプの恐怖が、脳裏にこびりついて離れない。現実は、漫画のアイツらのようには行かないことだって身に染みた。
それでも。
もう何もせずに後悔するのはまっぴらだ。
「おい!そこのデカトカゲぇぇぇぇ!てめぇのせいで星が見えねぇんだよ!!!」
龍と俺の目が合った。
この目、完全に俺を見下している。
あの神と同じ目だった。
「舐めてんじゃねぇぞぉぉ!ちょうど腹減ってたからな、てめえで我慢してやる」
その嫌いな目を、俺は睨み返した。
そこに、もう恐怖はなかった。
〈スキル:睨みをきかす レベル1を発動。対象に恐怖 小を付与します。〉
突然脳内に声が響いた。
一瞬驚いたが、今は後回しだ。
龍の影はどんどん大きくなり、鼓膜へ直に響く羽音は俺を吹き飛ばす勢いの暴風を巻き起こしている。
月明かりに照らされて、ようやく龍の姿を明確に捉えることが出来た。
月が降ってきたのではないかと見まごうほどの純白の輝きを放ち、瞳だけが怪しげに金色を纏っていた。
「真っ白とは、ずいぶん神々しいじゃねえか。てめぇ、やっぱりあいつの手先だろ」
身体は、今すぐこの場から逃走しろと、危険信号を上げている。気を抜けば、膝に力が抜けて立っていることさえもままならないだろう。
それでも、白竜から目をそらすことはしない。
安い矜恃だ。
ただの虚勢。
無駄なプライド。
…なんてことは、分かっている。それでも、自分の信念貫かないと、男が廃るってもんだろ。
「見てろよ、親父!」
枯れた草を踏みつけて、俺は駆け出した。
眼前にそびえ立つ、狂暴な白に向かって。
俺が動き出した瞬間に、その鼻先あたりから青い閃光を放たれる。
無慈悲にも、視界は一瞬にして奪われた。
それでも目は背けない。初めから、その先に父の偉大な背中を見据えていたから。
「いつかその背中、追い抜いてみせるからなあ!」
〈称号:不良の流星 を獲得しました。 〉
異世界/2日目/昼
俺は相変わらずの荒野で飛び起きた。
「きゃああああああ!!」
辺りに龍の姿は、ない。
それに、空はもう陽が高く登っている。
「もしかして、俺はあの青いブレスを食らっちまって、気を失っていた…のか?」
あれだけ、カッコつけたのに?
…俺、ダサくね?
「親父ぃ!無かったことにしてくれぇ!」
しかし、どれだけ思い出そうとしても、あの声が頭に響いた後の記憶は無かった。
そして、今更ながら突っ込まないといけない。
俺が飛び起きたと同時に、可愛い悲鳴を上げてずっこけた人物と布団替わりにかけてくれたのであろうローブについて。
異世界/1日目/夜
荒野を照らす月と、荒野を駆ける1人の黒い騎士が、純白の龍に孤独で挑む存在を見ていた。
無謀であり、しかし信念を持っている
『不良の流星』と化し、龍と渡り合った少年を。
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