リベリオン! 〜生まれ変わった奴が何にも縛られずに生きてたらいつの間にか反逆軍のリーダーになっていた話〜

ヤマイシ=キーチ

chapter.1 「生まれ変わるなら」

現世/4月1日/7時15分。


僕はいつも通り、洗面台の前で目立ちすぎず、ダサすぎないくらいの自然な感じの髪型にセット。


制服も、みんながやってるくらいに着崩す。

気に入っているアクセサリーを何となく着けるが、直ぐに外す。


「割と似合ってんじゃね?なんつって」


玄関で、運動部の使っている制汗剤の香り程度の香水をかける。

フレーバーについては割とクラスメイトからも好評な上、僕がはぐらかすので柔軟剤かシャンプーの香りだと思っている。


そう、僕は不良が好きだ。誰にも言えないけど。


父さんの遺品整理で、偶然手に取った1冊の不良マンガ。高校生の不良が、グループを結成して、他グループとぶつかりながら、どんどん大きな組織になっていく、そんな物語出会ったと思う。

僕より少し年上の彼らは、昔には実在していたらしい。

母さんいわく、父さんも昔は漢の中の漢だったらしい。僕の記憶の父さんは、ブラックな会社で日を追う事に過労で衰弱していく、そんな小さな背中であった。


他人の意見に左右されない、孤高の立ち居振る舞い。権力に屈することなく、自由を謳歌してとがっていた。素直に、かっこいいと思った。


???/4月1日/8時8分


「あれ、ここは?」


目が覚めると、辺り一面が真っ白であった。

僕の体も、よく見れば白に侵食されている気がする。


なぜだろう、この景色を見るのは初めてのはずなのに、ここが『現世ではない』というのはひと目で理解できる。


そんな未知の感覚に苛まれていると、足音もなく、目の前に人が立っていた。

反射的に見上げると、その人を眩しくて神々しい光が包んでいる。


「うぬは、そなたがその生涯を全うしたことをここに宣言してやる。」


光の隙間から、水面のような瞳が覗く。

僕のことを、いや、人間のことを見下した目だった。そう思うと、水面の奥に沈んだ深海のようなものを感じた。


「じつに、よく頑張ったではないか、褒めてやろう。」


そうか、僕は死んだんだ。

目の前の存在がどうやら神であるらしいと考え始めたとき、記憶の栓が抜けたように思い出してきた。


現世/4月1日/7時35分


家を出て、T字路にて、クラスメイトの女子を前方にみつけた。そこで声をかけようか迷っていた時、その背後に迫る暴走車に気づいた。


「あぶねえぞ!!」


そういえば、無意識で漫画の口調に引っ張られていたな。


ギリギリで彼女の制服を引き、受け止める。

暴走車は、少し過ぎたところで急に止まり、運転手が降りてきた。


「なんだその舐めた口の利き方はァ!道路なんだから、そっちが気をつけとれるのが当たり前だろうが!ガギ共が、ふざけんな!」


明らかに、正気ではなかった。

そして、運転手は手に鉄パイプを持っていた。

もしかしたら、僕も漫画の彼らのように喧嘩が強いかもしれないと考えたのが失敗だった。


振り下ろされた鉄パイプを、1度腕で受けた。

その痛みは僕が戦意喪失するのに十分だった。


彼女は青ざめながら必死に警察へ通報している。


僕は、恐怖と絶望が入り交じる中で、鈍器が何かを砕く鈍い音を聞いた。


???/4月1日/8時10分


「そんなそなたにはうぬが直々に魂の浄化を行ってやろう。」


神らしい存在が、その手を差し出す。

恐らく、僕がこの手を取れば『魂の浄化』とやらが行われて、そして僕という存在は消えるのだ。


僕の人生とはなんだったのだろうか。


15年間、言われるがままに過ごし、周りに合わせてばかりの人生。ひたすらに、誰かのことばかりを考えてきた。


そういえば、最後に不良っぽい口調が出ちゃった時、なんかすっきりしたな。

助けた彼女は、その後無事だったかな。

父さんも、こんなにすぐ僕が後を追うなんて思わなかったよね。


僕は、もう涙が止まらなかった。


「うぬを待たすな。今更後悔しても遅い。さっさと手を取れ。このうぬが終わらせてやろうと云うのに。そなたの実にむd」

「この豆電球野郎が!」


その瞬間、差し出された手ごと、神様は吹っ飛んで行った。相変わらず光を撒き散らしながら。


「人の倅泣かしてただで済むと思うなよ。」


吹っ飛んだのと逆の方を見ると、そこには男の背中があった。


「父…さん?」


「ああ。

お前の最期は俺も父親として誇らしかったぞ。

ただ、早すぎだ。このばかやろう。」


そう言って笑った父さんは、愛をこめた拳で神様をボコボコにして、違う世界という条件付きで僕を蘇らせるという約束を飲ませた。


神曰く、錯乱した男は僕が助けた女子生徒によって、痴漢の濡れ衣を着せられ、奥さんに逃げられて、会社もクビになり、その上彼女から多額の示談金も騙し取られて、自暴自棄になっていたらしい。


また、神曰く、僕は一連の人と人の因果に巻き込まれやすい星の元にあり、また人を巻き込むこともあるらしい。


こうして僕は、異世界にて体が生まれ変わったのだった。しかし、生まれ変わったのは体だけでは無い。


「もちろん、ココロから生まれ変わらねーとなあ!そういうことなんで、夜露死苦ッ!!」


僕、いや俺は不良として何にも縛られずに生きることに決めた。

父さん、いや親父、あと母さん。


わりぃ。俺、グレるわ。

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