第5話 迫る敵意

大陸暦1025年9月3日 アルミリア共和国


 国境にほど近い街ベルタの郊外。小さな修道院が目印の墓地に、十数人の人々が集う。少年は叔父と共に、一つの棺が埋められていくのを見つめるのみだった。


「あの子、両親を戦闘で亡くしたんですって。墜落した戦闘機に家ごと潰されて…」


「可哀想に…叔父も大変でしょうに」


 葬式の参列者達がこそこそと話す中、少年は目元を拭い、叔父と共にその場を離れていく。他の場所を見れば、同じように埋葬が執り行われている様子が見えた。


 ウェスティシアの大規模な攻撃は、この国の正規軍のみならず、一般市民にも多大な被害を及ぼしていた。この街に限ってみても、空軍機の墜落やら爆撃で20人以上が死傷している。


 二人は街へと戻り、市街地に進駐してきたウェスティシア軍の装甲車と歩兵の列に出会う。叔父は小さく舌打ちを打ち、少年はただ、市街地中心に向けて行軍していく敵兵の列を見つめるだけだった。


・・・


ユースティア連邦共和国西部 アビドス州キーザ市 連邦陸軍西部方面軍司令部


 ユースティア西部、広大な砂漠が殆どを占めるアビドス州は、古来からネフティスグループと呼ばれる企業複合体が幅を利かせる場所である。連邦陸軍で用いられている銃火器と装甲車両、そして連邦空軍の戦闘機はネフティスグループ傘下の企業で開発・製造されているものであり、まさしくこの国の国防の大黒柱と言っても過言ではなかった。


 そしてこの日、佐々木は陸軍西部方面軍司令部にて、司令官のアブダ・ローグ中将と会っていた。


「統合参謀本部より派遣されました、佐々木です」


「西部方面軍司令官のローグだ、よろしく頼む」


 二人は握手を交わし、佐々木は言葉を続ける。


「ローグ閣下、ご存知でしょうがウェスティシアは陸・空軍の共同による連携攻撃で戦果を上げております。軍種のしがらみに囚われる事のない戦術が求められております」


「それは知っている。貴官はそれについて策を講じてくれるのだろう?信頼しているぞ」


「…小原少尉、これから忙しくなりますよ」

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