第3話 兵棋演習

大陸暦1025年8月4日 ユースティア連邦共和国首都キヴォトスA.D. 連邦軍統合参謀本部『ヴァルホル』


 連邦軍統合参謀本部の一室、統合任務教導部隊『シャーレ』に与えられた会議室にて、佐々木は床面に敷いた地図を見つつ口を開く。


「ではこれより、兵棋演習を行う。赤軍、作戦開始」


 それを合図に、赤軍側に立つ士官達は地図上に置かれた駒を杖で浮かし、前へ進め始める。今回、ある程度の人員を集めて部隊としての体裁を整えた佐々木は、実際に戦争が起きた場合のシミュレーションを行い、統合任務の意義を再確認してもらおうとしていた。


「陸軍A部隊、アビドス州西部に展開。次いで空軍A部隊、アビドス州内軍事基地に対し攻撃開始。陸軍B部隊、ヴェルキア州西部に展開。空軍B部隊、ヴェルキア州内軍事基地へ攻撃を開始」


「白軍、作戦開始」


 小原が指示を出し、早瀬は駒を動かし始める。


「アビドス州陸軍第2機甲師団、序盤の攻撃により戦力の2割を喪失。再編の後に戦線へ展開開始。空軍第2航空団、同様の理由により戦力の4割を喪失し、早急な支援は不可能」


「おいおい、第2航空団は立派な掩体壕にハンガーを持ってるぞ。そう簡単に爆撃でやられるかよ」


 早瀬の言葉に、空軍から出向してきた者達が文句を漏らす。それを気に介する事もなく、早瀬は指示を進める。


「陸軍第12歩兵師団、序盤の攻撃により戦力の3割を喪失。陸軍第3機甲師団に救援を要請しつつ、戦力を再編。空軍は…第8航空団に防空を要請。反撃は陸軍主体で実施開始」


「待て、海軍は無視か?沿岸部はどうするんだよ」


 今度は海軍が不平を口に出す。佐々木はそれを見つつ、赤軍に指示を出す。


「赤軍、プラン開示」


「了解…っ!?これは…」


 手元に置かれた手紙を開き、士官は唖然となる。しかし佐々木は無言で頷き、実行に移させる。


「…陸軍A部隊に対し、陸軍C部隊を追加。さらにC部隊の要請に伴い、空軍A部隊は航空支援を開始。第2機甲師団は壊滅判定」


 士官の言葉に、早瀬はただ目を丸くするしかなかった。今回の交戦相手はあくまで国境を接する国々であり、駒の役割と価値もそれ相応のものに設定されている。陸軍A部隊の想定規模は陸軍2個師団であり、アビドス州防衛を主任務とする第2機甲師団のみで十二分に対処できると思っていたのだ。だが相手は想定の遥か上を行ってきた。


「次いで陸軍B部隊、海軍B部隊に対して艦砲射撃を要請。艦砲射撃と空軍B部隊の爆撃によって第12歩兵師団は壊滅し、沿岸部は敵が掌握。第3機甲師団は戦力の4割を喪失し、全滅判定。陸軍B部隊は陸軍D部隊とともに東進し、戦線は東へ推移」


 1ターンが終わり、佐々木はそこで待てをかける。そして茫然としている早瀬を見つめつつ、話し始めた。


「…皆、理解しただろう。どうして円滑に統合運用を行わなければならないのか。陸軍は自分達の力量を過信しているきらいがある。空軍や海軍と協調しなければ、この国を守る事は出来ない」


 佐々木はそう言いながら、指摘を続ける。そして小原に目を向けつつ、言葉を続ける。


「此度の兵棋演習で、多くの課題が見つかった。レポートを作る準備をしておいてくれ。それと、定期的に交流会を実施し、軍種間の対立解消を進める事も提唱しておこう」

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