③
……未だ、彼の背中は見えない。
最早、あの時抱いた感情が、今抱えるこの想いが、彼の夢に対する羨望だったのか、それとも、彼そのものに対する恋慕だったのか、僕には分からない。ずっと、ずっと、分からないままだ。
もしかしたら僕は、僕の、女としての部分は、彼の夢を疎んでいたのかもしれない。夢を持つ彼に恋焦がれながらも、「そんな夢なんて捨てて、私の傍にいてよ」と言いたかったのかもしれない。
だとしても、もう分からない。
もう覚えていない。思い出せないんだ。
多分、僕は、いっそ死んでしまいたいほどに彼のことを憎んでいて。
同時に、いっそ殺してしまいたいほどに――彼のことが、好きなんだと思う。
僕にとって、彼は光だった。
当たり前みたいに宙を切り裂き空を駆け、
あっという間に現実という重力を振り切って、
僕のいる地球という日常を脱して、
銀河の先の、そのまた向こうへ飛んでいく。
そうして、遙か彼方で輝き続ける。
真夏の空の下で、手を伸ばす。
曇天の向こうには、きっと変わらずに、彼という光がある。
……僕は、追い付けないままだ。
それでも僕は前に進む。
彼と違って、光のような速さではない。
電車より、自動車より、自転車より遅い、この両の脚で。
一歩、また一歩と、歩いて行く。
これが僕の精一杯。
ねえ、聞こえてる?
どれだけ重くとも、この憧れと恋心は捨てずに、抱えて進むから。
それでもいつか、この日常を飛び出して、君の隣に行ってみせるから。
いつか君に追い付いたなら、話をしたいと思うんだ。
そう、君の、
あるいは僕の、
綺羅星のように光放つ、夢の話を―――。
『僕の第二宇宙速度』 了
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