第3話 優しさと男らしさの相関関係
そして、夏祭り当日。
白地に青と紫の朝顔の花をあしらった着物に、淡いグリーンの帯。梓ちゃんは浴衣姿で来てくれた。
「梓ちゃん、似合ってるよ。すごく可愛い」
俺の言葉に頬を染めながら微笑む梓ちゃん。自然に、本当に自然に彼女と手をつないだ。なぜそんなことをしたのかは分からないけど、無意識のうちに手をつないでいた。「ヤバい!」と思ったのだけれど、梓ちゃんは優しく俺の手を握り返してくれた。ふたりでゆっくりと歩く田舎道。梓ちゃんが履いた下駄のカランコロンという軽やかな音が田んぼに響いていた。
お祭りが行われている神社の参道には沢山の屋台が並んでおり、大勢の参拝客で賑わっている。でも、そんな喧騒は耳に入らない。俺の耳には梓ちゃんの楽しげな声だけが聞こえていた。
しかし――
「そんなガキとおままごとかい?」
――振り向くと、そこには夏美と金髪の彼氏がいた。
夏美はピンクのキャミソールにデニムのミニスカート、白いサンダルを履いている。以前はもっと落ち着いた感じの服装が多かったけど、ファッションの趣味も随分と変わってしまった。金髪の彼氏は黒いTシャツにネイビーの短パンというラフな格好だ。
汚いモノを見るような目を向ける夏美。金髪の彼氏はいやらしくニヤけている。
「幼馴染みに振られたからって、そんなガキに手を出すなんて変態野郎だな」
そんな言葉に金髪を睨みつける俺。梓ちゃんを上から下まで値踏みするように眺める金髪は、彼女が可愛い女の子であることに気が付いたのだろう。
「なぁ、オレたちとお祭り回ろうぜ。そんな腰抜け野郎と一緒にいてもつまんねぇぞ。その後は、お前みたいなガキじゃ経験したことのないような気持ちいいことしてやっから。夏美と三人でな。オレ、チート級のテクの持ち主だぜ」
ニタリと笑い舌舐めずりする金髪。
俺は梓ちゃんを背中に隠そうとしたが、彼女は逆に前へ出た。
「確かに私はガキですが、あなたに何の魅力もないことは分かりますよ」
「は?」
怒りの表情を浮かべた金髪に梓ちゃんは続ける。
「私は優斗さんが好きです。私が優斗さんにお願いして、無理やり一緒に来ていただいているんです。何か問題ありますか?」
梓ちゃんの告白。それを馬鹿にするように夏美が吐き捨てる。
「そいつと長年付き合ってきたけどね、『優しい』ことしか取り柄がないわよ。彼みたいな男らしい『力強さ』や『強引さ』なんて皆無。あぁ、お子ちゃまには丁度イイかしらね」
ニヤける夏美。
「あなた、見る目が全然ないですね」
「なんですって、このクソガキ!」
冷静な梓ちゃんの言葉に激昂する夏美。
「『力強さ』も『強引さ』も『優しさ』という土台があって初めて成り立つものです。『優しさ』のない『力強さ』は、乱暴なだけです。『優しさ』のない『強引さ』は、思いやりがないだけです。優斗さんと長年お付き合いされていて、そんなことにも気が付かなかったのですか?」
夏美は何も言い返せず、悔しげに梓ちゃんを睨みつけた。
そんな夏美の腰を抱く金髪。
「まぁ、童貞くんとメスガキが何言っても痛くも痒くもねぇよ」
金髪は、その手を夏美の臀部へと伸ばした。
その行為にまんざらでもない夏美。
「優斗さん、もういきましょう」
梓ちゃんは俺の腕を引っ張った。
俺は梓ちゃんに引っ張られながら後ろを振り向き、一言だけ残した。
「夏美、もっと自分を大切にしてくれ」
俺の言葉にうんざりした表情の夏美。
もう俺の言葉は届かないのだろう。
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