第32話 復讐完了
チリチリチリ。
空気が圧縮されて高温を帯びた熱球が、周囲の空気を焼く音が聞こえてくる。
私はそれをどんどんとエリーデへと近づけていく。
「やっ、やめなさいっ!」
「なんで? あなたが止めなかったことを私が止める必要があるのかしら」
「やめっ……やめてっ!」
「なら、それ相応の態度ってものがあるんじゃないかしら」
私が微笑みを向けると、エリーデはその顔をゆがめたが……
先ほどの気丈さは薄れている。
「命のおねだり、やってごらんなさい?」
「ぐ……!」
「ほら、復唱なさい──『私はバレバレの策を企て、めちゃくちゃ黒幕っぽく登場したにも関わらず、手も足も出ずに完封された恥ずかしい墓穴堀り専門の勘違い策士です。こんな大間抜けがあなたの姉ですみません。這いつくばったこの姿勢のまま、泥の地面を喰いながらお詫び申し上げます。ですからどうか命だけはお助けください』──って」
「そっ、そんなこと……」
「じゃあ顔面に焼き穴空けちゃう? ねぇ、空けちゃう?」
圧縮球を近づけるそぶりに、エリーデは口をこれでもかというくらい歪めて、
「わっ、私はっ」
「私は?」
「わ、私はバレバレの策を企てて、」
とうとう復唱をし始めた。
「めちゃくちゃ黒幕っぽく登場したにも関わらず、手も足も出ずに完封された……はっ、恥ずかしい墓穴掘り専門の勘違い策士です……っ」
「うんうん。それで?」
「こっ、こんな大間抜けがあなたの姉でぇ……ず、ずびばぜん……!」
エリーデは言葉を紡ぐ途中で泣き始めていた。
大きな目の、その真紅の瞳を濡らし、
嗚咽し鼻水を流しながら、
「這いつくばった……この姿勢のまま、どっ、泥の地面を喰いながらお詫び申し上げますぅ……! ですから、どうか、どうか命だけはお助けくださいぃ……っ!」
「うん。よくできましたっ」
私はニコリと微笑むと、
「だが、断る」
「えっ──」
システム化魔法、"超上昇気流発生"、起動。
呆気に取られるエリーデのその体が突如として浮き上がった。
「さよなら、エリーデ。永遠の別れよ」
「うっ、うそ……!」
エリーデの顔が絶望に染まる。
私は、エリーデのその体めがけて熱球──
──ではなく、
「えいっ」
普通の圧縮球を叩きつけて吹き飛ばした。
「ふぐぅっ!?」
その攻撃を鳩尾に受けたエリーデは短い悲鳴を上げたかと思うと、地面を転がってピクリともしない。
どうやら意識を失ったようだ。
「復讐、完了ね」
別に最初から殺すつもりはない。
でも、この傲慢な少女の心は一度徹底的に折っておきたいと思っていたのだ。
だってホラ、このまま大人になったりしたら最悪じゃない?
学びの機会って大事だと思う。
……いや、別に私がドス黒い復讐を果たすのに悦びを覚え、ついやり過ぎてしまったとか……そんなワケじゃないよ?
「シャ、シャル様……」
「ああ、グリム。ごめんね。みっともないところを見せちゃって」
「いえ。僕はてっきり、シャル様はあのままエリーデ様を殺してしまうのかと……」
「まさか、悪魔じゃあるまいし」
「……! ですよねっ!!! シャル様が悪魔なワケありませんよねっ!」
グリムはなぜかすごい食いつきで、ウンウンと頷いていた。
「……じゃあ、気を取り直して出発しましょうか」
「はいっ!」
門に向けて再び、私とグリムは2人で歩き出す。
改めて、いろいろとあった2年だったわね。
苦汁を嘗めさせられることが多かったけれど、グリムと出会い、生活魔術を覚え、そしてログハウスを作り、なんだかんだで最後あたりはちょっと楽しかったかも。
……でもきっと、これから先の生活の方がもっと楽しいに違いないわ。
この世界には地図もない未知の森があり、謎に包まれた歴史的建造物が立ち並ぶ国があるらしい。
王国に広がるのは綺麗な中世ヨーロッパのような街並み、現代日本とはまったく異なる文化に根付く人の営みがある。
そしてなによりディルマーニ家のその正門をくぐり抜けた先の外に、もう誰も私たちの自由を奪う者はいない。
……これだけでもう、心は躍ろうというものじゃないっ!
「さあ、新しい生活のスタートよっ!」
その日の月や星はまぶしいくらいの光で道行きを照らしていて、まるで私たちの門出を祝福してくれているようだった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます!
コンテスト用に改稿したお話はここまでになります。
もし少しでも「おもしろい」などご感想ございましたら、ぜひ☆評価などよろしくお願いいたします。
また、続きも見たい!と思ってくださいましたら、
以下の作品の【掃除者編】からが続きの内容となっています。
※改稿していないため、少し読みにくいかもしれません。
↓作品
絶対復讐令嬢シャルロット 浅見朝志 @super-yasai-jin
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