第30話 対策

「あははっ! 芸が無いわねシャルロット」



さて、私の放った目には見えぬはずの圧縮球を、エリーデはやはり軽快なステップで避けていく。

隙無く、風魔術の応用技を展開していたようだ。



「悪いけど貴女の遊びに付き合うつもりは無いのよ。黙ってノビておきなさい」



エリーデの指先が白く輝いたかと思うと、そこから音速を超えた電撃が私に向かって伸びてくる。

それは2週間前に私とグリムを叩きのめしてくれた雷属性魔術。

人間の反応速度では避けられぬ一撃。

だが、しかし。



「……あら?」



エリーデが首を傾げる。

それもそのはず、電撃は私を貫きはしなかった。

それは蛇がうねるように弧を描き、私とは全く別方向の地面へと突き刺さったのだ。



「"稲妻の通り道"って概念を知っているかしら、エリーデ姉様?」


「稲妻の通り道……?」



……知らないわよね、まだきっとこの世界には上空できらめく稲妻を正確に捉えている人などいないに違いないのだから。



雷はが地上に向かって落ちるのには決められたルートがある。

それが、稲妻の通り道。

と、いうわけで私はこの2週間の間に、その通り道を意図して作るシステム化魔術を組み上げて準備していたというわけ。



「姉様の雷属性魔術はもう私に届かないわ」


「あっそう。そうなのね……残念」



エリーデはそれほど驚いた様子もなく肩を竦めて、それから残酷な笑みを浮かべる。



「本当に残念だわ。雷魔術は私の"他のオリジナル魔術"に比べたらずいぶんと優しい部類だったのだけれどねぇ……」


「他の……オリジナル?」


「ええ。いま見せて上げるわ」



エリーデが手を上空へと掲げた、その先で。

大きな音を立て、広範囲に爆発が起こった。



「これは水属性魔術と火属性魔術の応用、爆発魔術よ。身体はバラバラにしないように威力は抑えるけれど、全身火傷はするでしょうね」



躊躇なく、エリーデの手がこちらに向けられる。



「まあどのみち私にここで捕まれば、どうせラングロに処刑されるだけでしょうし……構わないわよね?」



私を中心とした空気が変わった。

そしてまたたく間に私とグリム、2人を巻き込む爆風が──。



「……え?」



──起こらなかった。



「な、なんで……? どういうこと……っ?」



エリーデが恐らくは同じ魔術を何度も繰り返しているが、しかし一向に私は吹き飛んだりしない。

まあそれもそのはずだ。



「エリーデ、アンタは驕りすぎた」


「な、なにがよ……?」


「万全を期すなら私を泳がすべきじゃなかったのよ」


「勝ったような口ぶりを!」



エリーデが地面へと手を向けると、今度は黒い煙のようなものが舞い上がり私を囲うような帯となった。



「なるほど。今度は砂鉄ね……」



雷属性魔術の磁力を使用して地面から砂鉄を吸い寄せ、それを土属性魔術で操っているのだろう。

黒い帯が私を締め付けようと私に迫ってくるが、しかし。



「残念ですけれど……」



私に触れる手前数メートルの位置で、黒い帯はただの砂鉄となって風に飛ばされていく。

とうとう、エリーデの表情からいっさいの余裕が消えた。



「どうして……」


「さあ、なんででしょうかね?」



引きつった表情をするエリーデに、今度は私がニヤリと微笑みかけてやる。



「命を乞う準備をしておきなさい、エリーデ。私は中途半端なことはしないわよ……?」

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