第22話 決闘

穏やかな木漏れ日が差し込む昼下がりの森の中。

ログハウスの外で、心中がドシャ降り気分の私はエリーデと向かい合って立っていた。



「準備はいいかしら、シャルロット」



心底楽しげな表情でエリーデがこちらを見てくる。

少女の外見に似合わず、なんというか虎が獲物を目の前にしたような迫力さえ感じてしまう。



……ああ、どうしてこんなことに……。



突然『決闘してみましょう』なんて言われて外に引っ張り出されて、どうしろと?

しかも相手はディルマーニ家史上最高の天才と名高いエリーデだ。

その実力は恐らく長男アルフレッドたちとは比べ物にならないだろう。



「あの姉様、本当になんで決闘なんて……」


「ちゃんと構えておきなさい、シャルロット。でないと死ぬわよ?」



……聞く耳なしですか。そして実の妹を相手に殺す気で決闘を仕掛けるつもりですか……?



重たいため息がこぼれ出てしまう。

この決闘に拒否権はなかった。

エリーデ曰く、「拒否したらここをすべてぶち壊した上ですべてをラングロにチクる」だそうだ。


ああ、さすが天才ね。

こちらの弱点を良く理解してらっしゃるわ。

こんちくしょー。



……まあ、やるしかないというのであれば、やるしかないわね。



そうだ、プラスに考えればいいじゃない。

魔術を使用した戦闘は初。

ここで経験を積んでおくに越したことはないだろう。


私の覚悟を見て取ってか、おもむろにエリーデが右手を私へと向けた。


次の瞬間ゾッ、と。

悪寒が背中を駆け抜けた。



「──ッ!」



私はとっさに身体強化の魔術を使い、横っ飛びに飛んだ。

すると私が元いた場所を凄まじい勢いの水流が貫いていく。


見るのは初めてだが、恐らくは水属性魔術だろう。

やはりティムやアルフレッドたちとは次元の異なる速さだった。

それはもはやのんきに目で追いながらシステム化魔術を発動できるレベルじゃない。



……レベル、高すぎじゃないっ!? 天才とはいえ、これで子供の範疇なのっ!?



驚愕の事実ではあるけど、

こちらとて負けていられないっ!



「なら、こっちだって!」



──"システム:圧縮球"、起動。ループ×10。



目には目を歯には歯をってやつね。

目で追えない速度の魔術を仕掛けてくるのであれば、こちらは目で見えない魔術を仕掛けるまで!


私は大気を圧縮してできた透明な球を10発、エリーデに向けて撃ち出した。

直撃したとしても死ぬことはない。

一切の遠慮なく叩き込ませてもらう。

しかし、エリーデはその球がまるで見えているかのように正確にかわしていく。



……エリーデの前髪やドレスが風に揺れている……うっそ、ということはそれ、もしかして風の魔術の応用……っ?



迫りくる圧縮球によって乱れた風の動きからその位置を特定したのだろうか。

もしそうだとしたら、それは以前読んだ本によれば高等技術のハズ。

ちょっとちょっと……この世界の天才児ってみんなこのレベルなの……っ?



「次は私の番ね」



エリーデが今度は土くれや火球を飛ばしてくる。

やはりそれらは私の反応速度を上回るスピードで、先ほど横っ飛びして体勢の崩れている私へと迫る。


かわす間もない直撃コース……ではあったが、しかし。



「対策済みよっ!」



それらの魔術は私の身体に当たる直前で立ち消えた。



「……! シャルロット、貴女今、何をしたの……?」


「さあ、なんでしょうね」



……わざわざこちらの切り札を明かすわけないじゃないの。



とにかくこれでまだ、私は戦える!


……。


……いや別に全然戦いたいワケじゃないんだけど!

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