第11話 身につけた力
さてさて、私は眠気まなこをこすりながら朝ごはんを食べ終わると、黒い魔本を持ってさっそくグリムのいる庭の手入れ用具入れへと行く。
「グリム、これずっと貸してもらっていた本。ありがとうね、すごく役に立ったわ」
「あ、はい。どういたしまして。僕はぜんぜん大丈夫ですよ。シャル様が『代わりに』といろいろな本をくれましたし」
さて、1年の月日が流れて、グリムは11歳になっていた。
心なしか肉体は少し男に近いものに成長してきており、たくましくなっている気がする。
読み書きの勉強はずっと続けてきていて、いまでは小説を1人で読み、日記などもつけられるまでになっていた。
ただ、丁寧な口調と心優しい性格はそのままで、私にとって相変わらずこの家の唯一の良心だ。
これからもずっとそのままの純真なグリムでいて欲しいよ、私は。
「いい子いい子……」
「あの、シャル様? さすがにこの年で頭を撫でられるのは恥ずかしいのですが」
あと最近、私からお願いして呼び方を変えてもらった。
だってシャルロット様なんて堅苦しいんだもの。
だからシャルって呼んで欲しいって言ったんだけれど、どうしても敬称は外せないということでシャル様になった。
私の方もくん付けはやめてグリムと呼ぶようになっていた。
ちょっと無理やり感は否めないけど、でも仲良くなれた感じがしてけっこう嬉しい。
「それにしても、お返ししてもらったこの本、ずいぶん懐かしいものですね」
「ええ、そうね。この本をグリムが生活魔術で取り寄せてくれたことがすべてのキッカケだったわね」
グリムがこの黒い魔本を手も触れずに自分の元へと吸い寄せてくれていなかったら、私はいまでもなんの魔術も使えないただの幼女だったに違いない。
「まあでも、その時はまさかその本が魔術の術式の使用方法について書かれている魔本だったとは思わなかったけどね」
この本は私が腹ペコでこの用具入れを訪ねたとき、すでにグリムの手元にあったもので、本人はこれを焼却場の近くで拾ったと言っている。
誰にも読めない、というか解読する気の起こらなかった古い文字で書かれた本だったから、おそらくラングロあたりが不要だと考えて廃棄したに違いない。
アイツがバカでよかったと、ラングロの頭の中身を豆腐かなにかに差し替えてくれたのであろう神に心から感謝したわよ。
うん、本当に。
「まあ最初は私も読む気なんて起こらなかったけど……魔術の術式っぽい図が書かれていたから。物は試しってことで根気よく解読してみてよかったわ。まさか魔術固定化なんていう便利な術式があるとは思ってもみなかったし。よく拾ってくれたわね、グリム」
「シャル様のお役に立てたのであればよかったです! ……でも、その魔術固定化? を使うと結局どんなことができるようになるんですか?」
「うん。実はね、今日はそれを見てもらおうと思って朝早くから押しかけたの。説明をするよりも実際にやってみせたほうが早いと思って」
私はそう言うと、グリムが暮らす用具入れの中から草刈り鎌を取り出した。
危ないですよ、と言われるが別に振り回すつもりなんてない。
「グリム、今日はまだ庭の手入れの仕事はしていないわよね?」
「あ、はい。これから取り掛かろうかと思ってて……」
「それならよかった」
私は鎌の刃渡りの長さを確認し、敷地内の庭の広さを測定した。
そして刈った草を掃く箒に、集めた草を焼却場へと運ぶ台車もチェック。
「えっと……なにをなさっているんですか?」
「ちょっと仕事の自動化をね」
グリムが余計に分からなくなったとでも言いたげに首を傾げる。
まあ、見た方が早いよね。
「いま見せてあげるわ……私のこのシステム化魔術を」
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