第3話 復讐のための努力

私は久しぶりの自室に戻ると、部屋の中を物色する。



……うーん、これからの役に立ちそうなものはまるでないなぁ……。



私の兄たち、特に長男からの"イジメ"の一環でボロボロにされたぬいぐるみや割かれたシーツ、破かれたお気に入りの自作の絵が散らばっているだけだ。


まあ今はそんなことどうでもいい。

私がやるべきことは勉強と体力づくりなのだから。


まずは勉強からしよう。

 

残念ながら幼女であるシャルロットの記憶にはこの世界の一般常識があまりなかった。

出来損ないで誰からも愛されていないゆえに、まともな教育を受けていなかったし、外に連れ出してもらう機会もなかったからだ。



……だから、自分で学んでいくしかない。



知識とは一種の力だ。

体格差なども関係しない、男女平等に鍛えられる素晴らしいステータスである。

これを鍛えないなんてとんでもない!



……というわけで、さっそく両親たちの書斎へと忍び込んで地理や歴史の本、語学本、辞書などを拝借すると部屋へと持ち帰ってきたわよ。



思いついたら即行動。

行動力こそ、人生を思う方向に進めるために一番大事な力だと私は確信している。

前世の時だって、行動に移さなければ負けていた戦い(仕事上の諍いや出世競争など)がいくつもあった。


そうやって報われた成功体験は私の中に根強く残っていたので、勉強はまるで苦にならない。



「ふむふむ、なるほどね……」



地理の本や歴史の本をパラパラめくり、分からない単語は辞書で調べる。

幼女の頭は物覚えがよい。

ほんの数日で新しい単語を覚えつつこの世界の最低限の常識を掴みつつある。



──さて、とりあえずこの世界の概要は頭に入った。



まず私たちの暮らしている国の名前はセンドルク王国という。

名前の通り王政であり、貴族主義の男社会だそうだ。

文化レベルは中世ヨーロッパそのもの。


また、貴族が通う魔術学校はあるが女性や平民が通う学校はない。

そして王宮では貴族しか働けない、など不平等がまかり通っているらしい。



……まったく。そんなところまで中世ヨーロッパに似なくてもいいのに。



そしてもうひとつ特筆すべき点としては、この世界にはモンスターが存在するということ。

基本的に街や村以外の場所はモンスターのテリトリーであり非常に危険、というのが地理の本から読み取れた。



「モンスターがいるってことは、モンスターを討伐するための職業もありそうね」



前世でちょこちょこゲームをやっていたから分かることだけど、その知識を借りて表すとするならば冒険者という立ち位置的なアレだ。

もしかしたらこの世界にも冒険者ギルドみたいなものがあるのかも。


それでそれが年齢問わずに登録できるものなのであれば、私が独立するにあたって生活費を稼ぐためのひとつの手段にするのもいいだろう。

ちょっと頭の片隅にでも置いておこうかな。



「さて、ずっと本を読み続けて身体も怠くなったことだし……」



続けて次に行うのは体力づくりだ。

幼女の身であれ、基礎体力はあるに越したことはない。


動きやすい服を引っ張り出してきて着替える。

とはいってもこの世界にスポーツウェアやジャージなどあるはずもなく、それは半袖とハーフパンツ姿のただの寝間着だ。


まずは部屋の中で基本的な筋トレをひと通りこなして、身体の動かし方というものをこの幼女の身体に馴染ませていく。

腕立ては3回もできず腹筋はまるで上がらなかったけど、でも幼女ならこんなものでしょう。


次第にできるようになっていけばいいのよ、こういうのは。






* * *






そうして勉強と体力づくり、それらに費やした日々が1週間あまり経った頃。

私が新しい本を取ってこようと思って部屋から出たところで嫌な奴らと遭遇してしまった。



「おーシャルロット。遊ぼうぜ~」


「ヒヒッ! 遊ぼう遊ぼう!」



鼻にかかった声で私の名を呼ぶのは、ワカメみたいな金の長髪をうっとうしくぶら下げる長男のアルフレッド・ディルマーニ。

歳は確か今年で12歳。


そしてその隣にはいつも長男について回っている次男のフリード。

こっちは特徴という特徴もない。

歳は10歳かそこらだったはずだ。



「また新しい魔術を覚えたから遊び相手になってほしいんだよねぇ~」


「ヒヒッ! そうそう!」



私が快復してから1週間待って、またいじめ始めても問題ないとでも思ってやってきたようだ。

ニヤニヤと醜悪な笑みをこちらに向けている。


うーん、ムカつく顔だ。

コイツらにも復讐したい……

いや、いつか必ずする予定だけど、残念ながら今は機ではないんだよなぁ。


とはいえ、無視するというのは悪手だ。

こういう手合いは相手にしなかったらしなかったで付け上がるものなのだ。


じゃあ、どうするか?



「オイ、シャルロット。何をニヤついているんだ」


「えっ? ああ、これは失敬」



おっと、いけない。

私の頬は反射的に緩んでいたようだ。


だってホラ、ねぇ?

復讐の時はまだだけど、それまでの間に要らぬちょっかいをかけられないためにも、少し理解わからせてあげる必要はあるじゃない?



……せっかく虐めに来てくれたんだもの、お返しにたっぷりと虐め返してあげなくちゃねぇ?



さあてと、復讐の前菜にちょっくらからかってやりましょう。

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