第四話 2人の日常

 仁玖と馬子は、屋上でお弁当を食べていた。

 今日は久しぶりに、馬子が仁玖を誘ったのだ。

 いつも一緒にお弁当を食べる日は、ほぼ一緒に遊びに行く。

 2人で決めた訳ではないが、自然とそうなったのだ。


「まこっちゃん、今日暇?」

「ふむ、仕方ない時間を作ってやろう」

「実はさ~商店街の魚屋さん……の隣の揚げ物屋さんでね、サバフライ詰め放題やるんだよ」

「ほう、仁玖にしては気が利くな」

「普段は気が利かない奴みたいに言うね」

「自分の行動が本当に私の役にたっていると?」

「当たり前だよ、まこっちゃんを笑顔に出来るのは私だけさ」


 仁玖は決め顔でそう言った。

 その笑顔はニヤリとしていて、可愛いとかカッコイイではない、気持ち悪い、

 本人はビシッと決まっている! と思っている。

 おそらく、私今イケてるという気持ちが、顔に出でしまったのだろう。

 馬子は可哀想な子供を見る目をした。 


「……すまないな、私は男性が好きだ」

「何!? 私のまこっちゃんに悪い虫が!?」

「居るわけ無いだろ、お前には悪い虫は付かないのか?」

「……男子に異性としてみられていないような? 男女問わず友達多いけどさ」

「ああ……いい人で終わるタイプか」

「いや何かクラスでざて、いい感じの奴らがチラホラ居るのよ」

「ほう」

「なんかさー! 私が仲介人みたいな感じになるのよ」

「ふむ」

「例えば、誰々と仲良しになりたいとかね」

「ほう、恋のキューピットか」

「私のキューピットは居ないんだよ! ちくしょう!」

「……落ち着いてくれ」


 本気で悔しがる仁玖に対して、そう言うしかなかった。

 仁玖はその明るさから、男女問わず友達が多い。

 でも浮いた話も何も無かった、無かったんだ。


「でな!? 付き合った奴らが何故か! 私の実家で買い物をするんだよ!」

「ん? 売上が上がっていいじゃないか?」

「母親になんて言われると思う!?」

「知らん、どう言われるんだ?」

「『はい、宣伝ありがとう、お駄賃』だぜ!? いや、正直臨時収入は嬉しいけどさ、心の臨時収入は無いわけよ!」

「ふむ、つまり彼氏が欲しいと?」

「あったりめーよ! と思ったが、まこっちゃんを誰かにとられたくない!」

「いや、普通に気持ち悪いから、落ち着いて」

「へっへっへっへ……私は焼肉の様に熱い女だぜ?」

「スミになれ」


 これも2人とっては日常、仁玖も馬子も自然体で話をしている。

 彼女達の心の癒しで、週に1回は必ずある。

 午後の授業も終わり放課後。


「さあさあ! 商店街へレッツゴー!」

「待て仁玖、その前にいいだろうか?」

「ん? どったのさ」

「お前が居る商店街に、喫茶店があっただろ?」

「あるね、名前は『アリエンジェル』だったかな」

「そこにサバパフェなるものが、有ると聞いたんだが?」

「えぇ……何そのまずそうなパフェ」

「ふむ、パフェと聞くとイメージは甘いものだろう」

「いやまあ……違うの?」

「最近は色々とあるらしい、寿司パフェなんかもあるとか」

「ん? それってパフェみたいにさ、着飾った寿司って事?」

「まあそうだな」

「よし百聞は一見に如かずッス! 喫茶店に行くっぜ!」


 2人はアリエンジェルへと向かった、そしてサバパフェを頼む。

 馬子は珍しくウキウキしていて、仁玖は不安な顔をしていた。

 サンプルの写真が無かったからだ。

 仁玖の予想をいい意味で裏切る物が届いた。


 店員さんが持ってきたサバパフェ。

 それは一言で言うならば、お酒のサングリアっぽい。

 液体は薄いオレンジ色、具はレンコン、ニンジン。

 ミニトマト、ブロッコリー等々、色とりどりだ。

 そしてすだちがグラスに刺さっている。


「おお……これがサバパフェ」

「ほう、彩りが明るくていいな」

「いただきま~す」

「いただきます」


 2人は食べ始めた、口に入れて納得したような顔をしていた。

 さっぱりとしたお吸い物、液体はゼラチンで固めているのか、ゼリー状になっている。


「ああ……ご飯が欲しくなる、うんサッパリしているけど……おかずだこれ」

「頼むのか?」

「いや、晩御飯入らなくなるでしょ」

「ふむ、私はこれ単体で大満足だ」

「本当にまこっちゃんサバ好きね」

「ああ、仁玖は何が好きなんだ?」

「ん? 言ってなかったっけ? あたりめ、お菓子、お肉」

「いや、なんであたりめなんだ?」

「え? 好物をどうしてって言われても」

「ああ、そうだな……すまない」


 そんなこんなで、サバパフェを完食した2人。

 魚屋さんへと向かう、正確には隣の揚げ物屋。

 兄弟でお店をしているらしい。

 

 揚げ物屋の看板には、サバフライ詰め合わせ一回五百円、と書かれている。

 サバフライは、一口サイズの大きさだった。

 

「っしゃ、まずは私から挑戦だ!」


 仁玖はお金を払って挑戦開始。

 意気揚々と小さいビニール袋に、サバフライをトングを使って入れていく。

 だがテキトーにポイポイ入れていたからか、直ぐにパンパンになった。

 サバフライは、約15匹くらい入っていた。


「ぐぬぬぬ……あちらこちらに隙間が……」

「ふっ、仁玖見ていろ」


 馬子はお金を払い、詰め合わせ開始。

 その場に居る者達を、魅了するトング裁きを見せた。

 大きさ、形、太さ、それらを一瞬で見抜く。

 馬子は約25匹、ビニール袋に詰めていた。


「……まこっちゃん一つ聞くけどさ、一人でたべられるの?」

「ふふ、お前のと交換だ」

「え? どうして?」

「その量なら私の2日分だ」

「えぇ……痛風にならないでよ?」

「ああ」

「あ、少しうちにあがっていって」 

「しょうがないな」


 仁玖の家に向かう2人は、とても楽しそうだった。

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