第三話 駒沢馬子の日常

 笑顔ヶ丘高校生、1年B組駒沢こまざわ馬子まこ

 谷姫たにひめ仁玖にくとは小学生からの親友だ。

 容姿端麗、才色兼備、絶滅した大和撫子を思わせる。

 振る舞い、性格も完璧で究極の配信者の卵。

 と、思いきや、彼女にも多少なりと弱みがある。

 

 セール品や半額シールに弱い、それはもう、谷姫が止めるくらいに。

 そんな彼女の一日を見ていこう、先ずは起床を見てみよう。


「…………ふふ」


 彼女は、谷姫がくれたぬいぐるみを抱いて寝ている。

 これは小学生の時に、谷姫がプレゼントしてくれたものだ。

 目覚まし時計のアラームが彼女を起こす。


 一人暮らしをしている馬子、炊事洗濯はもちろん。

 全て一人でこなしている、身支度を済ませた彼女がする事。

 それはお弁当作りである、栄養バランスやいろどりを考えている。


「サバは必要だ、裂ける焼肉もだ」


 彼女の好物はサバ、どんな弁当にもサバは入れる。

 お弁当を作り終わったら、登校の用意をしていざ学校へ。


「……仁玖はまた遅刻か」


 学校には余裕をもって登校している、授業態度も完璧で隙が無い。

 そのためか、学校で気さくに話しかける人は少ない。

 他人からは、クールビューティで基本的に口数も少ない。

 だが仁玖と一緒に居る時は、よく笑いよく喋る。

 

「仁玖、今日も遅刻か」

「遅刻じゃないやい! 今日は夢でまこっちゃんの――」

「……」


 馬子は仁玖のほほにビンタをした。

 いい音が響く、これも2人の何時ものやり取り。

 最初こそクラスメイトは驚いていた。

 しかし、数ヶ月もすれば何時もの事かと慣れる。


「アイタ! まだ何も言ってない!」

「どうせくだらない事だろう?」

「くだらない? まこっちゃんの――」

「……」


 馬子が立ち上がる、その瞬間仁玖は身構えた。

 これも何時もの光景、この後は――

 馬子は華麗な回し蹴りをくらわせた。

 

 実は彼女は格闘家の娘、その流派は『馬脚流星ばきゃくりゅうせい』という。

 これはその昔、駒沢の戦国時代より前の先祖が、小さな戦に参加していた。

 手を負傷して武器も持てない、大怪我の親友を守らればならない。

 先祖に対して親友は逃げろと言っても、逃げなかった。

 その時、親友が投げた言葉から生れたのだ!


『だったら敵なんざ! 馬の様に蹴って流れ星にしてしまえ!』


 つまりこの蹴り技は、友を守るために生れたのだ!

 だが今は平和な世の中、次代の当主は親友のツッコミに使っていた。


「ぐぼはぁ!? ま、待って……焼肉が……リバース……へっへっへっへ……女の子がはいちゃいけねぇ」

「はぁ……」


 これもクラスの日常となりつつある。

 そんなこんなで、授業が始まりと終わりを繰り返えす。

 そしてお昼時、馬子は基本的に一人でお弁当を食べている。

 学校の屋上で考え事をしている、それは彼女の大切な時間。

 

 彼女の趣味の一つにカメラがある、何時も被写体の事を考えていた。

 基本的にカメラで何を撮るかを考えていた、それがクールビューティに見えるのだろう。


「……今日は写真部は休み、良かった今日はサバとサバ缶のセール」


 そしてセール品あさりも彼女趣味、もちろんいらない物を買ったりはしない。 

 必要物で自分が使える範囲で買う、当たり前の事だが。


「よし、学校が終わったら、急いで向かおう」


 そんな感じの昼食を食べ終えた、午後の授業も終わり放課後。

 ダッシュで行きつけのスーパーへ。

 サバ缶をカゴに大量投入している時に、主婦の方々から声をかけられた。


「あら馬子ちゃんじゃない!」 

「あ、こんにちは」

「こんにちは! 学校の帰り?」

「はい」


 馬子は、主婦の方々から可愛がられていた。

 夫の愚直を聞いて、上手いこと主婦を誘導して円満に戻したり。

 不審者に絡まれた奥様を助けたり、重い荷物を持ったりと様々。

 結果的に料理を教えてもらったり、食材等を貰ったりもした。


 主婦の方々の会話も終わり、サバも買って家に向かう。

 そして着替えて夕飯の支度を開始する。


「ふっ、今日はサバパーティーだ、ご飯、サバ、サバ缶……こんな日もあるだろう」


 サバが安い時は、いつも彼女はこうである。

 夕飯を食べる時にも、カメラや被写体等を考えている。

 そして何時もちょっかいを出してくる、仁玖の事を考えていた。


「今日の仁玖は素晴らしかった、私の蹴りを耐える程になったか……いやいや、格闘家目線では駄目だ」


 毎回怒った時の蹴り技、実は少しずつ威力を上げている。

 そして蹴りのキレも上げている、それに対して仁玖は反応速度を上げてきたのだ。 

 最近ではどちらの足で、何処を狙ってくるか本能で理解しているとか。


「とは言え親友を蹴ってしまった、仕方ない、明日は一緒にお弁当だ」


 馬子はスマホで仁玖に連絡をする、即効で返事が帰って来た。

 こんな騒がしい親友が居て、嬉しいと思う馬子。


「よし、少しは優しくしてやろう、明日はサバパーティーだ!」


 次の日、焼肉とサバパーティーの開催。

 食べきれずに、クラスメイトに配る事になった。

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