第4話 出先にて
「いや~、片瀬さ~ん、よくいらっしゃいました~。さっそく工場の中、見てってくださいよ~。ちょうどいま、みんなで収穫してたところなんです~」
「はは、はい……」
間延びする口調の社長に促され、あれよあれよという間に、片瀬は菌床シイタケの工場へと案内された。
(うえ……)
金属製の棚にところせましと、土の塊のようなものが敷き詰められていて、そこからはニョコニョコと見事なシイタケが生えている。
これまでの流れがあったから、山のようなキノコを目撃した彼は、頭がクラクラしはじめてきた。
「この塊が『ホダ』って言いましてね、この中にキノコの生育を促す菌が詰まってるんですよ~」
「へえ、そうなんですね……」
シイタケをできるだけ見ないようにして、片瀬は適当な返事を続けていた。
「あの、社長、肝心のホームページの件は?」
「ああ、そうだった! 自分、パソコンやネットは基本操作ができるくらいで、ホームページの構築だとか、SEOだとかはさっぱりなんですよ~。片瀬さんにぜひお願いしたいと思って、あ、こっちが事務所になりますんで」
「おお、それでは失礼して……」
彼が社長のいざなうドアのほうへ向かおうとしたとき――
「わあっ――!」
すぐ横の棚がぐらりと傾いて、片瀬の頭の上から大量の『ホダ』が落下してきた。
驚いたその口にシイタケが入り込み、彼は条件反射でそれを吐き出した。
「おえ、おえ~っ……!」
「片瀬さん、大丈夫ですか!? こら、誰だ!? お客さんになんてことをしてくれるんだ!」
社長が叫んだが、そこには誰もいない。
ちょうど昼休みの時間だったので、数名いる社員たちは、すでにみんな休憩室のほうへと移動していたのだ。
「あれ、誰もいない……おかしいな、ネコでも入り込んだのか……?」
「社長、自分は大丈夫ですから……それより、何か拭くものを貸していただけませんでしょうか?」
「ああ、これは失礼! すぐに持ってきますから、ちょっと待っててください!」
社長はすぐに事務所へと向かった。
あとには片瀬ひとりだけが残された。
「ああ、最悪……くそ~、キノコ注意報めえ……」
彼は工場の中ににらみを利かせたが、やはりそこには人っ子ひとりいない。
「いったいなんなんだ? まさか何かの呪いとかか? 冗談じゃないぞ、俺はそんなもの信じないからな」
しばらくして。
「片瀬さ~ん、洗面所を使ってくださ~い。いまお昼の準備もできましたから~」
「お昼って、確か……」
事務所のドアが開いて、両手でかかえるような大皿を社長が運んできた。
そこにはバカでかいシイタケの料理が山のように盛られていた。
「ひ……」
「うちで収穫した自慢のシイタケのバター蒸しですよ~。おいしいキノコを召し上がれ~」
「ひ、ひ、ひい~っ!」
湯気を出すシイタケに胃液が逆流しそうになった彼は、思わずその場から逃げ出そうとした。
「あれ、どうしたんです? 片瀬さ~ん」
「わあっ――!」
気が動転した片瀬は、金属の棚に足を引っかけ、地面へすっころんでしまった。
「あ、危な~い!」
ひっくり返った棚から『ホダ』が次々と落下してきて、彼はシイタケの雨に見舞われた。
「ぐ、むぐ……」
あっという間に片瀬は、『ホダ』の山の下敷きになってしまった。
「あっ、片瀬さん! だっ、誰か、救急車っ!」
「……」
彼の意識はそのまま、遠くのほうへと飛んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます