第23話 迷いと素直な言葉

「今日は、ここで諦めるよ。でも、復讐を諦めたわけではないから。必ず、人間に僕達魔女の苦しみを味合わせてあげる」


「そうなる時は、俺が必ず止める。俺を殺してからやるんだな」


「…………それは、出来るだけ避けたいけど、まぁ、いいや」


 ここで言い争っても意味は無いと思ったのかな、これ以上言い争うことはしなかった。

 あそこまで復讐の炎に駆られていたのに、ここまで今は落ち着いている。

 それほどまでに、グレールさんの言葉はセーブルの心を揺らしたんだ。


「本当に、不思議な人間だね。魔女である僕に、あんなことを言うなんて」


「魔女だろうと人間だろうと、君は一人の女性だろう? それなら、扱い方は変わらんぞ。まぁ、魔女っ娘と同じ扱いは無理だけどな」


 当たり前のように言うグレールさんの言葉は、セーブルを驚かせた。

 同時に、ボトルグリーンの瞳に光が宿る。


 驚くよね、そうなるよね。

 私も、同じだった。というか、今も驚いた。

 なんで、私の話が出るんだろう、今は聞かないけど。


 グレールさんの言葉はいつも真っすぐで、嘘を吐いているように感じない。

 だからこそ、出来る限りこの人間を敵には回したくない。


 実力も普通に高いし、純粋に戦いたくない。


「――――セーブル。もし良かったら、これから私と共にツエバルで生活しない? ずっと一人だったから、同じ魔女仲間がいてくれたら嬉しいのだけれど」


 聞くと、セーブルはなぜか驚いたような表情を浮かべた。


「なんで? 僕はリュミエールが大事に守ってきた魔石を奪おうとしたんだよ? なんで、そんなことを言えるの?」


「なんでって…………」


 言葉にする野が難しいなぁ。助けを求めるため、思わずグレールさんを見てしまった。

 なんで視線を向けられているのかわからないらしく、きょとんとしてしまう。


 うーん、どうしよう。

 なんて、答えよう。


 私が困っていると、クラルが足元で代弁してくれた。


『ツエバルには、定期的に物好きな二人がやってくるからな、迂闊に魔石に手は出せないだろう』


「物好きな二人?」


 顔を上げ、グレールさん達を見るセーブル。

 グレールさんは何故かわからないけど胸を張り、フィーロさんは目を輝かせていた。


 そんな二人を見て、セーブルはげんなりとした顔を浮かべる。

 うん、そんな顔を浮かべたくなるよね、わかる。


「…………遠慮、しようかな」


「それなら、これからどうするの?」


「魔女ということは隠して、旅に出ようかな。どうせ、人間に住処を滅ぼされたし」


 まだ憎しみは残っているみたい、グレールさん達を見て冷たく言う。

 二人は顔を逸らし、口笛を吹き誤魔化そうとしているけど、意味ないと思いますよ。


「――――そう言えばなのですが、一つ、教えて頂いてもよろしいでしょうか、セーブルさん」


 一歩前に出て、フィーロさんが手を上げ質問した。


「なに?」


「最近、ここ一帯で魔獣が複数目撃されています。最初は、人間の仕業かと思っていたのですが、何か心当たりはありませんか?」


 あ、そうだ。

 魔獣が増えているから、それもどうにかしないといけないんだ。


 セーブルが何か知っていると嬉しんだけど……。

 考え込んでしまったセーブルを待っていると、何かを思い出したのかハッとなった。


「魔獣が増えているのは、魔女がここに二人もいるからじゃないかな。それか、魔石が周りの魔獣を引き寄せている可能性もあるかも」


「作り出しているのが誰かまではわかりませんか?」


「そこまでは……。でも、僕がここから離れて、結界を張り直せば魔獣も少しは減ると思うよ。魔力が弱まるからね。それと、結界をもっと強力にすることをおすすめするかな。今回の結界では、また狙われてしまうと思うよ」


 そっか、結界を強めればいいのか。

 そうすれば、少しでも魔獣の襲撃を抑えることが出来る。


 でも、今でも相当強くしていたんだけど、今以上か………。

 出来なくはないけど、少しきついかもしれないな。


 魔石を認識できないようにして、魔力も溢れないようにしている。

 私一人でどこまで強めることが出来るかな………。


 不安になっていると、グレールさんが私の肩をポンッと叩いた。

 な、なんだろう。


「難しい顔を浮かべているみたいだが、大丈夫か? 俺に出来ることがあれば、何でもするぞ」


 笑みを浮かべてグレールさんが言ってくれる。

 ここで甘えてもいいのだろうか。

 だって、グレールさんにとって魔石は、正直どうでもいい。


 …………あぁ、なんで私はこんなに迷ってしまうんだろう。

 まだ、魔女としてのプライドがあるんだろうか。


 自然と杖を強く握ってしまう。

 こんなに迷ってしまうプライドなんて、捨てればいいのに。

 グレールさんは、私が魔女でも人間でも、同じように接してくれているのだから。


 視線を下げてしまうと、グレールさんが私の顎を掴み顔を上げさせられた。


「俺は、君の役に立ちたいんだ。だが、余計なお世話というのもしたくはない。だから、君の素直な気持ちを教えてくれないか? 手伝いがいらないのなら言ってくれ。必要なら行ってくれ。俺は、君に従う」


 紅蓮の、瞳。

 今まで、幾度となく見てきた紅蓮の瞳は、今も赤く燃え上がっている。

 でも、どこか冷たくて、冷静になれる瞳だ。


「…………手を、貸して頂けませんか?」


 素直な気持ちが、自然と口から零れ落ちる。

 すると、グレールさんの紅蓮の瞳が大きく開いた。


「あ、当たり前だ!!」


「え、ちょ!! 何をするんですかぁぁぁあ!!!」


 抱き着かないでくださぁぁぁぁああい!!!

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