第22話 戦意喪失

『リュミエール?』


「…………何でもないわ、クラル。今は、何もせず二人を見守りましょう。変に周りが声を出せば、均衡が崩れます」


 そう思って見守ろうとしたけど、なぜかセーブルは動かない。

 グレールさんも動かなくなったセーブルを見て、首を傾げている。


「どうした? 君ほどの実力なのならそんな蔓など、簡単に切れるだろう?」


「…………本当に、僕の復讐の気持ちは、制圧しないの?」


 なに、その質問。なんでそんなこと聞くんだろう。

 まるで、本当は誰かに復讐を止めてほしかったみたいな言い方だ。


「その質問の意図がわからないな。復讐の気持ちを持つのは、当たり前だろう? 仮に俺が同じ立場だったのなら復讐を考えないとは、とても言えないからな」


 これ、かな。さっき、フィーロさんが言っていたこと。

 相手の立場になって物事を考える優しい人。自分も、私達と同じ境遇だった場合、復讐を考えてしまうかもしれない。だから、無理に押さえ込もうとしない。


「だから、実力で止めようと思ってな。君も、復讐の気持ちを他人の言葉だけで落ち着かせることは出来ないだろう。仮に、無理やり落ち着かせたとしても、心には残り続ける。そんなの、苦しいだろう? それなら、今ここですっきりさせた方がいい。戦闘は好きなんだ、いくらでも付き合うぞ!」


 ニヤリと不敵に笑ったグレールさんを見て、セーブルは戦意を喪失したのか、顔を下げた。

 すると、何故か肩を震わせ笑い出す。


「そっか、そういう考えを持つ人間なんだ」


「そ、そうだな…………?」


 なぜセーブルが笑っているのかわからないグレールさんが目を丸くしている。

 隣まで移動すると、困惑した表情を向けてきた。


「魔女っ娘?」


「…………セーブル。私も人間に復讐したい気持ちは、今も持ち続けているわ。でも、それは今ではないと思うの」


 セーブルを見上げると、ボトルグリーンの瞳と目が合った。


「人間にも、悪い人と良い人がいる。悪い人だけ消すのも、いいんじゃない?」


「それはそれで、俺は止めなければならんかもしれないがな…………」


「そうなったら、私が今度は相手になるわ。この、魔女の中でも天才と謳われたリュミエール様がね」


 ウインクをすると、グレールさんは頬を染め、胸を抑えた。

 え、胸を押さえてしゃがみこんじゃった!! わ、私魔法を放っていないんだけど!?


「い、色々な感情が…………」


「え、え? グレールさん!? 大丈夫ですか!?」


 え、ちょ、私、どうすればいいの!?


「ふふっ、面白いことを言いますね、リュミエールさん」


「あ、あの、これ、どうすればいいんですか!?」


 グレールさんの背中をひとまず摩っているけれど、良くならない。

 逆に悪化しているような気がするんだけど、なんで!?


「そのまま背中を摩っていてください、いずれ良くなります」


「え、でも、悪化しているように感じますが…………」


「大丈夫ですよ。さぁ、そのまま摩っていてください」


 なんか、楽しんでいませんか? フィーロさん。


「フィーロ、貴様…………」


「ふふっ。では、こちらも話を進めましょうか。セーブルという魔女よ、君はまだ、復讐を遂行するかい?」


 フィーロさんの問いかけが耳に入ったのか、グレールさんは真剣な表情を浮かべ立ちあがる。

 剣を一度腰に差し、セーブルを見上げた。


「どっちでも構わんぞ。流石に、復讐を止めることはさせてもらうが、やろうという気持ちを邪魔する気はない」


 腕を組み、見上げているグレールさんは、どこか自信満々。

 相手は魔女なのに、なんでそこまで自信満々なんだろう。


「…………君達を殺さないと、復讐は出来ないということ?」


「そうだな。俺は騎士として、ツェダリア国を守らなければならん。そこは理解してほしい」


 剣を握り、見据える。

 また、戦闘が始まるのか。そうなれば、私は多分、グレールさんの味方をするだろうな。


「…………やめておく」


「お? いいのか?」


「うん。多分、僕では君達に勝てない」


「? しかし、君は魔女だろう? 楯突いておいて言う言葉ではないのだが、人間である俺など簡単に倒せるのではないか?」


「簡単に倒される気は毛頭ないが」と、胸を張る。

 やっぱり、自信満々だなぁ。凄い……。


「僕では、君達に勝てない。魔力がいくらあっても、魔法の強さや種類では勝てないこともあるんだよ」


「それだけではないけど」と、セーブルは諦めたように顔を下げる。

 本当に戦意消失したのか、もう魔力などは感じない。本当に、復讐を諦めたのだろう。


「どうしますか、グレール様。自由にさせるのは危険かとは思うのですが」


「だが、あの魔女は、蔓の操縦者を簡単に変えることが出来る魔法を持っている。それにも関わらず、抵抗しない。今の言葉は本当だろう。魔力も感じないしな」


 グレールさんの言葉に、フィーロさんは素直に頷き地面にセーブルを下ろした。

 自由になったセーブルは、動こうとしない。


 ちらっと後ろにある魔石を見た時は体が勝手に反応したけど、すぐにこちらを向く。杖を下ろしながら近付いて来た。

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