第21話 彼の気持ち

 ──って、いけない。喜んでいる場合じゃないわね。


「人間の魔力に合わせなければならないのは大変だけれど、そのくらいはしてあげるわ。何だって、私は魔女なんだから!!」


 風魔法を繰り出し、炎魔法を巻き込みセーブルに向かわせる。

 前方にグレールさんがいたけど、私の魔法を感じ、ニヤリと笑う。


 ギリギリまで引き付けたかと思うと、横に跳び回避。風と共に炎が真っ直ぐセーブルに向かう。


 燃え上がる風魔法を水魔法で防ごうとするけど、二人の魔力が加わっているんだよ、一人分の魔法で防げるわけないでしょ?


 簡単に水魔法を蒸発し、もろに食らった、みたいね。


「かはっ!!」


 体が後ろに吹っ飛び、地面に背中をぶつけ、引きずられる。

 そのまま勢いは弱まり、地面に転がった。


 すぐに拘束しようと、フィーロさんは蔓を動かし締め上げた。


「さて、何で魔石を奪おうとしたのか。洗いざらい吐いてもらおうか。と、言っても大体想像できるけどな」


 締め上げられたセーブルの前に移動し、グレールさんが腕を組み見上げながら問いかける。


 苦しそうに顔を歪めているセーブルは、グレールさんを見下ろし、歯を食いしばっていた。


「あれだろう。魔女の村が人間によって滅ぼされてしまった。だから、人間に復讐したいから力が欲しい──だろ。違うか?」


 冷たく放たれた言葉に、セーブルは顔を真っ赤にし暴れ始めた。


「そうだよ。僕達は、人間世界に何もしていない!! 何もしていないにも関わらず、魔女は全滅した! なぜ、僕達が村を追われないといけなかったのか、なんで魔女というだけで殺されないといけなかったのか!! 納得など出来るわけがない! だから、人間にも同じ思いをさせてやろうと思った。それが悪いというの!?」


 叫ぶように言い放ったセーブル。

 彼女の言い分も、わかる。魔女からすれば、理不尽な出来事だったから。


 魔女は、人間達に何もしていない。

 可能性があるというだけで、魔女が様々な魔法を使えるからという理由だけで、魔女の村は滅ぼされた。


 酷いと思った、私も復讐しようと思った。

 復讐、したかった。


 でも、出来なかった。

 セーブルみたいに勇気がなかった。


 私に勇気があれば、復讐なんて簡単に出来るのに。


「確かに、それは理不尽だ。魔女について調べている時も、その話を聞いた。だから、復讐したいと思うのは仕方がない。そこに関しては、俺も同意するところだ!」


「だったら、なぜ邪魔をする!!」


「俺が、オルレアン家の騎士であり、人間だからだ。守らなければならないから、守っている。立場上、君を止めねばならんのだ!」


 剣を前に突き出し、グレールさんが言い切った。


「君の考えを否定はせん。だが、俺は俺の守るべき者達を守らせてもらう。そのためならいくらでも戦うぞ、魔女よ!!」


 否定は、しないんだ。

 復讐される側なのに、否定しないで、受け止めようとしている。


 魔女を相手にするなんて、簡単じゃない。

 もしかしたら、死ぬかも知れないのに。

 なんで…………。


「グレール様は、そういう人なんですよ」


「フィーロさん……。そういう人というのは……?」


「グレール様は、物事を客観的に見る癖があるらしく、自分の立場だけでなく相手の立場、思いも汲み取ってしまうらしいのですよ」


 相手の立場や、思考を汲み取る?


「簡単に言えば、優しいのです。誰よりも。そして、理不尽が嫌いなんですよ。だから、今も相手の気持ちを汲み取り、それでも自分の立場上、引くわけにもいかない。だから、勝負を挑んだのです。それが一番、公平でしょ?」


 ニコッと笑うと、フィーロさんはグレールさんを見た。


 二人はまだにらみ合っている。

 いや、グレールさんの言葉が意外だったのか、セーブルは動けないでいた。


 相手を言葉で反省させたり、無理やり従わせることはせず、相手の気持ちを大事にしつつ、公平にお互いの主張を通す。


 グレールさんは、どうしてそんなことをしているんだろう。

 わからない。グレールさんがわからない。


 でも、わからないだけで、終わらせたくない。

 知りたい、グレールさんを。色んなことを聞きたい。

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