第20話 合わせ魔法

 困惑しているとセーブルが苦い顔を浮かべ、炎を消そうと水魔法を発動する。けど、高度な複合魔法だ、簡単には消せない。


「こんな魔法を、人間如きが扱うなんて…………」


「人間も、想像よりかは落ちてないだろう?」


 グレールさんが言うと、フィーロさんが動き出す。


「では、拘束させていただきますね。あまり暴れない方がよろしいかと。痛い思い、したくないでしょう?」


 言いながらまたしても植物魔法を発動。

 蔓を伸ばし、セーブルを捕まえようとする。


 けれど、そう簡単に捕まえられるほど、魔女は甘くない。


 不安に思っていると、やっぱりと言うべきか。嫌な予感が的中してしまった。


「魔女を馬鹿にしないで。僕達魔女は、こんなもんじゃないよ!!」


 叫ぶと、強い魔力が杖に集まる。

 でも、まだ魔力を燃やしている炎は灯されている、そんな急激に魔力を使うことなんてできないはず。


 穴が開いている袋に水が入っている状態。至る所から魔力が水のように流れ出ているはず。


 はず……、なのに。なんで?

 なんで、魔力をこんなに集めることが出来るの?

 なんで、ここまでの魔力がまだ残っているの?


『魔石だ』


「え? 魔石? でも、魔石はさっき、グレールさんが炎の壁で守ってくれたはず……」


『近くにいるだけで、魔女の場合は効力があるのかしれん』


 まさか、そんな……。

 それなら、炎で魔力を燃やし続けても、グレールさんの魔力がなくなるだけ。意味がない。


「話は聞きました。グレール様も、お聞きになりましたか?」


「おう。なら、あの炎は消そう」


 パチンと指を鳴らすと、炎は消える。同時に、炎を体に纏わせた。


「まどろっこしいのは無しだ」


 言いながら、グレールさんは散歩をするように歩きだす。

 セーブルに近付いて行くけど、そんなゆっくりで大丈夫なの?


 さっきから驚くことばかりで、目が離せない。

 今の人間は、ここまで成長しているの?


「今の僕に近付くなんて、甘く見られたものだね」


「甘くは見ていない。本気を出しただけだ」


 言いながら剣を片手で握り直し、歩き続ける。

 魔力を高めているセーブルは困惑しているみたいだけど、集中は切らさない。


 二人とも、何をするつもりなの?


 額から、一粒の汗が流れ出る。

 だって、こんなにも何が起きているのかわからない状況が目の前で続いているんだ。緊張するのも無理はない。


 魔力が波のように、私達に流れる。


「面白い。これが、魔女!!」


 隣ではフィーロさんが目を輝かせているし……。

 これを一般的には、カオスな状態っていうんだろうなぁ。


 そんな、他人事のような思考を巡らせていると、セーブルが動きを見せた。


「それ以上、近付かせると思う?」


 言いながら杖を振りかざす。


「っ、しまった!!」


「え?」


 隣で興奮していたフィーロさんが急に焦り出す。

 見ていると、フィーロさんが出した蔓が急に動きを止めた。


 何が起きたのか見ていると、蔓が急にグレールさんを襲う。


「危ない!」


 叫ぶと、グレールさんは何が起きたのか理解する前に、蔓を燃やした。判断、早い……。


「なるほど。相手の魔法を自分のものにする魔法か、難しいのを持っているな」


「魔女を舐めないで」


 言いながら次の魔法を放つ。

 今度は、水。沢山の水の弾を作り、グレールさんへと放った。


 グレールさんの得意属性が炎だから水を放ったのかな。

 しかも、これは布石だろう。さっきの魔力量からして、こんな単純な魔法だけで終わるのは考えられない。


 それは、グレールさんも察しているはず。

 でも、今は水の弾を剣で切るので精一杯に見える。


 私も、動き出せるようにした方がいいかも。


「――――っ、え?」


 足元から、魔力?


 地面を見ると、影が動いている。

 しかも、変な動き。これって、まさか影を動かしているの? 影魔法?


 いや、考える前に動かないと!


 後ろに跳ぶと――――やっぱり。

 影が少し離れて私を追いかける。それは、私だけではなく、フィーロさんの影も同様。私と同じで木の上に逃げたり、走り避けている。


「────影は、光に弱いのよ」


 光り魔法を繰り出し、影を薄くする。

 でも、それもさすがに予想通りだろう。


 次の手を出してきた。


「っ、グレールさん?」


 グレールさんの瞳が一瞬、私に向いた。

 瞬間、炎の壁が私の前に出来上がる。


「な、なんで!?」


 これじゃ、奥を見ることが出来ない!!


『リュミエールを守るため、遮断したのかもしれぬな』


「そんなことしなくてもいいのに…………。逆に、迷惑!」


『リュミエール――――いや。違うな。守るためにしては、ガードが薄い』


 クラルが言うように、炎の壁は触れると通り抜けてしまう。

 この炎魔法、何のために……。


「風魔法を願いします!!」


 何かに気づいたフィーロさんが、影から逃げながらそんなことを言ってきた。


 風魔法…………そういうこと!?

 まさか、ここで属性を合わせるなんて。しかも、相談もなしに。


『出すしかないな』


「私、風魔法を使っているところ、見せたことないと思うんだけど」


『信じているのだろうな。リュミエールの言葉を』


「私の言葉?」


 あ、もしかして、私は強いって、言葉かな。

 魔女は様々な魔法を使うことが出来る。その情報も、魔女について調べた時に手に入れたのかも。


 本当に、あの人間は何を考えているのかわからない。

 わからないけど、なんだろう、嬉しい。


 信じてくれているからなのか、強いと認めてくれているからなのか。


 正直、何に対して嬉しいという感情が浮かんでいるのかわからないけど、嬉しいのなら、いいや。

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